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乙女ゲームとは別の所で、ハッピーエンドに向かっているようです。

先に謝ります、すみません。長い上に途中視点が切り替わるので、読み難いかもしれません。そして、次こそラストです。(暫くしたら修正します)

 

 いきなりだけど。『真実の愛を探して』というクサイタイトルの乙女ゲームに私はドハマりしていた。


 え? この話なら、もう知っている? まあまあ、どうか少しだけ、お付き合い下さいな。


 どんなゲームかと言えば、庶民の家で育ったヒロインが、王立学園に特待生として入学する事から始まり、学園生活の中で攻略したいキャラの注目するパラメーターを上げつつ、会話やイベント等で攻略対象の好感度を上げて行くというもの。そこには悪役と言える悪役令嬢等も登場したりする。パラ上げや、好感度を上げるだけでは攻略キャラを落とせないのだ。


 攻略キャラクターは、メインに第二王子。他に悪役令嬢の義兄、学園の不良、庶民の特待生と、隠しキャラがいる。


 私は、どの攻略キャラクターも好きだったけど。特にメインの俺様キャラである、第二王子が一番好きだった。


 もう一度、言おう。“好きだった”と。


 うん、やっぱり過去形だね。


 でもね、今は俺様ヘタレな彼の事が―――……








 あー、とりあえず。私も名乗ったほうがいいかな? 向こうは知っているみたいだけど。


 「私は、リリーシャ・ハーシェルと申します。それで、セ…マーロ様とおっしゃいましたか」


 いきなり、セルジュって呼び捨てにしたらマズイよね、危ない危ない。一応、初対面な訳だし。


 「セルジュで構いませんよ。僕は貴族の出ではありませんから」


 ニッコリと爽やかに笑うセルジュに、少しだけ笑みを返す。


 「そう、ですか? では、セルジュと呼ばせて頂きますわ。私の事もリリーシャと呼んで下さいませ」

 「いやいや、それは出来ませんよ! 僕は貴女をハーシェル様とお呼びします。貴女の名を呼んだら後が怖いので」


 ん? 私は別に怒らないけど? どうも前世の記憶があるせいか、階級で差別するって言うの? ああいうのあまり好きじゃないんだよねー。


 「あ。その顔は解っていませんね? 貴女の事を名前で呼んだら、僕は第二王子殿下に敵視されてしまいます。王族を敵に回すなどあり得ない。それに、僕の可愛いカレンにもヤキモチを妬かれてしまいますから……ああ、でも。カレンにヤキモチを妬かせてみるのもイイな」


 おい、最後の呟きもしっかり聞こえているぞ。(ちなみに“カレン”はヒロインのデフォルトネームね)しかし。セルジュ!お前、爽やかの皮を被った腹黒かよ!


 ん? そう言えば、第二王子に敵視されるって言った? なんで? とりあえず、後で聞いてみよう。まずは――…


 「それで、セルジュ。貴方が私に声を掛けてきたのは口止めの為ですか? それならば言いふらしたりなど致しませんのでご安心下さい。ですから、貴方が見た事もお忘れくださいませ」


 ホント、頼む! 忘れてくれ! しれっとして見せていたけれど! 実は、めっちゃ恥ずかしかったからね、アレ!


 「ええ、そうです。そうして頂けるとありがたいです。僕のカレンは照れ屋なので。ああ、僕も勿論、先程見た事は忘れる事にします」


 青い瞳を細め、セルジュは口元に笑みを浮かべた。


 「ところで、その…貴方の彼女、カレンさんは?」


 ヒロインは空気を読んで黙ってセルジュの隣に居た…という訳ではなく。セルジュが私に声を掛けてきた時から居なかった。


 「ああ、カレンは用事があるらしくて。向こう…反対側の渡り廊下から校舎に戻りましたよ。ですから、カレンはハーシェル様と第二王子のラブシーンは見ていませんよ」


 おい、待て。ラブシーン言うな! 人(他人)に言われるとキッツイわ!


 「そ、そうですか。それから、もう一つ宜しいですか?」

 「はい? 僕に答えられる事でしたら、どうぞ」


 ニコニコと、笑顔を見せるセルジュ。何だか、さっきの腹黒っぽい呟きを聞いた後だと、嘘臭く見えるな。実は宰相子息でしたーとかじゃないだろうな?

 いや、宰相子息に会った事はあるから別人なのは解るんだけどね? こう、ものの例えみたいな? 腹黒キャラ=宰相子息、みたいなイメージ?

おっと、いかん。話が逸れそうだ。


 「先程、セルジュが仰っていた殿下についての事ですが―――…」





――――――――――




 …――息を切らせて。ただひたすら走った。


 「っ、はあ、っは! …はあ、っ! ……はっ! 」


 もう走れない!! って、位。ひたすら、学園の敷地内を走って走って。


 辿り着いたのは学園寮内にある自分の部屋だった。


 ガチャガチャ! と、ドアノブを回して、鍵の掛かったままのドアを開けようとしていた辺り、自分が今、どれだけ冷静さを失っているのかに気づく。


 「…チッ」


 普段の帰寮時間より早いせいか、俺様付きの従者は出掛けているらしい。


 念の為にと、持たされていた部屋の鍵を制服のポケットから取り出し、部屋の鍵を開き、乱暴にドアを開け室内に入った。


 そして。俺様は、そのままベッドへと飛び込むように倒れ込んだ。


 「あー…あー!!」


 (何だか、よく解らない…解らないが!!)


 先程。意図せず間近に見てしまった、あいつの見開かれた、少しだけ猫のように吊り上がった綺麗な紫の瞳に、少しでも下手に動いてしまえば自身の唇と触れ合ってしまっただろう薄桃色の唇。

 しっかりと触れてしまった柔らかな胸の膨らみ、そして。あいつの温もりや、あいつのものと思われる甘い香りを思い出すと、妙な気持ちになった。


 嬉しい? 恥ずかしい? 焦り? それから…上手く言い表せないものもある。こう、喉の辺りまでは出かかっているのだ。


 この気持ちが何なのか解らなくてモヤモヤする。ふと、自分の手の平を上げて、見上げる。


 「あー…解りそうで、解らん。それにしても。意外と大きかったな…って!! ちっがあぁあああーう!! ああぁあああ!! もう!! 何なんだ!? あいつは、昔から俺様より秀でていて。だから俺様は、あいつに勝ちたかった! それだけだろう!? それだけだった筈だ!」


 それなのに。いったい、どうしてしまったと言うんだ―――…!!




 (あいつの事を思い出すと胸の辺りが、おかしいんだ)





――――――――――





 最近。俺様ヘタレからヘタレに完全にジョブチェンジをしたと思われる第二王子ヘタレに避けられている。


 セルジュと話をしたあの日。私は彼と、こんな会話をしていた。


 『先程、セルジュが仰っていた殿下についての事ですが…敵視されてしまう、とはどういう事でしょう?』

 『え? ああ。あれは…うーん。言っちゃっても良いのかなー、でも本人はまだ自覚無さそうだしなぁ。ああいうのは多分、気づくまで避け出すよな…』

 『あのー? 一人でブツブツ言いながら考え込まないで頂けます?』

 『あ、すみませーん。そうですねぇ、僕からは…ご自身で考えて下さいね! って事で!』

 『は? 何を?』


 恐らく私は『全く解らん!』と言った表情だったのだろう。


 『仕方ありませんね、じゃあヒントだけ。第二王子って、普段からハーシェル様にジャンルを問わず、いつも勝負事を挑まれてますよね?』

 『えっ、ええ』


 いつも、私が勝つけどね。


 『次に第二王子にお会いになった時に、そうだな…剣術がいいかな? 剣術で勝負を挑まれてみると良いかもしれません』

 『? 剣術の勝負でしたら何回かした事がありますけど?』

 『ええ、存じています。貴女方の事は、とても有名ですから』


 ん? ああ、第二王子と、その婚約者だから?


 『あははっ、やっぱり解らないって顔をしている。とにかく、第二王子に剣術の勝負を挑まれてみればお解りになると思います。僕から言えるのはこれだけです。それでは、僕はこのへんで失礼致しますね。あまり長々と貴女と二人で話をしていて、噂でも立てられては大変ですから』


 そんな会話をした次の日。私は、とりあえず第二王子に剣術の勝負を申し込む為。

 

 朝、第二王子の部屋へと彼に会いに行ったのだけど――…


 『申し訳ございません、リリーシャ様。殿下でしたら、先程までいらっしゃったのですが、今日は早めに行くと、既に学園へと移動されていまして…』


 出てきたのは、第二王子付きの従者のみ。


 教室では――…


 『殿下、あの少し宜しいでしょうか?』

 『済まないが、急いでいる! ではな!』


 視線も合わせずに教室から出て行ってしまった。


 休み時間も、昼休みも、放課後までも。


 第二王子は『用事が!』だの『教員に呼び出しを受けている!』だの『腹が痛いから医務室に行く!』だの言って、私の前からササッと居なくなってしまった。


 これは、もう勝負を申し込むどころではないよね?

私、避けられている? と思いつつ、医務室へ行ってみた。そこに、第二王子は居なかった。


 うん。これは避けられている事、間違いないな!







 …――それから、数日が過ぎて。


 「という訳なのだけど、どうしたら良いのかしら?」


 腕を胸の辺りで組み、首を傾げて『困りましたわー』と言ってみる。


 目の前にいる相手は特待生カップルの片割れ、セルジュだ。


 この日の昼休み。第二王子にまたしても逃げられ、チッ!あの野郎いつまで逃げる気だ!?カールした前髪は今はもうストレートになっているから、毟れないな。残念だ。まあ、いい。捕まえたら前世でやられた事のある、物凄く痛いデコピンをお見舞いしてやる! と思っていたところ。

 偶然、廊下で会ったので愚痴を聞かせて…いや、聞いてもらっていた。


 「あー、ややこしくなってますねぇ。でも、もうそろそろ大丈夫だと思いますよー?」

 「何がです?」

 「だって…」


 苦笑したセルジュが、私の耳元に口を寄せて来て――…


 「第二王子。少し先の角から、僕らの事を見ています。あ、睨んでる。ははっ、怖いなぁ。んー、これ以上はヤバいかな。と言う訳で、僕には愛しい愛しい彼女が居るから、ハーシェル様の事は恋愛対象ではない、と。第二王子に、ちゃんと伝えて下さいよ?」


 そう囁いた。


 そして、セルジュの言葉に(よく分からないながらも)頷いてから振り向くと――…


 「殿下!」


 バッと踵を返して第二王子は走り出した。彼を追って、私も走り出す。


 背後からは――…


 『セ、セルジュのバカーッ! 浮気者ーっ!』


 …――と。可愛らしい女の子の叫ぶ声が聞こえた。

恐らく、ヒロインのカレン嬢だろう。すまん! セルジュ! 後で誤解を解く為の協力は惜しまない!







 第二王子を追いかけて。やって来たのは校舎裏の私のお気に入りの場所だった。今日も明るい日差しが降り注ぎ、大木に生い茂る緑の葉はサワサワと風に揺れている。


 「っ、お待ち下さい、殿下! このっ、待てって言ってんでしょうがっ!! ヴォルティス殿下っ!!」


 立ち止まって、第二王子の背に向けて力一杯、彼の名を叫んだ。


 「…はっ? い、今。お前、俺様の名前を…?」

 「呼びましたわ! それが何か?」


 最近は第二王子の後頭部ばっかり見ていたから、普段のアホっぽい第二王子の顔を漸く見る事が出来た。…なんか、何だろう。ホッとした。


 いやー、それにしても。まさか、名前を呼ぶだけで捕まえられるものだとは思わなかったわ。


 「久しぶりですわね? 殿下」

 「……ああ」

 「この数日。よくも逃げ回って下さいましたわね?」

 「…別に、俺様は逃げてなど」


 そう、ボソッと言いながら。視線をそらす彼の顔に、両手を添えた。彼は一瞬、ビクと身体を揺らしたけれど、それでも視線をそらさないで欲しいと思ったのだ。


 「ヴォルティス様」

 「……すまなかった」


 うん、謝ったから許す。とりあえず。


 「それで? 何故、私を避けていたのです? 私との婚約を破棄なさるおつもりだった、とか?」


 ゲームシナリオは、ヒロインがセルジュとくっついている時点で崩壊していると思ったんだけどなー。婚約破棄イベントだけ起こる(かもしれない)とか、どんなバグですか。


 「違う!」

 「では、何故?」

 「その…だな。俺様は、だな」


 なんだ、なんだ? 第二王子がモジモジし始めたぞ。


 「何ですか! ハッキリと仰って下さい! 鬱陶しい!」

 「いつもながら酷いな、お前は! 本当に何故、俺様は!! お前の事が…っ、リリーシャの事が、好きなのか自分で自分が理解できん!!」


 え? 今、何て言った? リリーシャ?

あ、何気に私の名前初めて呼んだな、この人も。


 「あの…殿下。私の名前を…覚えていらっしゃったのですね」

 「そこか! そこに注目したのか!?」


 いや、解ってはいる。いるのだけど――…


 「あの…本当、に? 後から嘘に決まっているだろう阿呆が! とか、言いません?」

 「……嘘ではない、本当だ。最も、この気持ちの名が“好き”というものだと気がついたのは最近の事だが。俺様は、リリーシャ・ハーシェルの事が好きだ」


 うん、ヤバい。なんか、めちゃくちゃ格好良く見えるんだけど。誰がって? 第二王子が。


 今、私の顔色は真っ赤だと思う。くそー、やられた!!


 第二王子、ううん。ヴォルティス殿下め!!


 「あー…降参だわ」


 私は俯き呟いた。流石に、ハッキリ好意を示されて気付かない程、鈍くはない。






 私は、八歳の時から…正確には前世の事を思い出してからだけど。婚約は破棄されるものだと思っていたんだよね。

 それで、学園の高等部を卒業したら(ゲームの婚約破棄イベントは、卒業式後だったからね)家を出て冒険者になるつもりだった。

 だから、希望する女子が少ない剣術の授業も、体術の授業も取っていたし、それ以外の事も役立つだろうと、記憶だけに頼らず真剣に学んできたのだけど。


 …――もう、冒険者を目指す必要は無いのかもしれないね。


 それに、いつもいつも。何度負けようとも、真っ直ぐな瞳で、何度も勝負を挑んでくる第二王子ヴォルティスの瞳は輝いていた。今回こそは俺様が勝つんだ! と。

 最初の頃は、ウザくて。返り討ちにして冷たくあしらっていたのに、それでも彼は挑んできた。ドMに目覚めさせたか、と一時心配した事は内緒だ。






 そして。私は顔を上げて――…


 「私も。どうやら、いつの間にかヴォルティス様の事を好きになってしまっていたみたいですわ!」


 ニッと笑ってみせた。


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