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乙女ゲームは、まだ始まらないようです。

前後編の予定です。主人公が時々(?)口も態度も悪いです。


 いきなりな話だけど。『真実の愛を探して』というクサいタイトルの乙女ゲームに、私はドハマりしていた。


 どんなゲームかと言えば、庶民の家で育ったヒロインが、王立学園に特待生として入学する事から始まり、学園生活の中で攻略したいキャラの注目するパラメーターを上げつつ、会話やイベント等で攻略対象の好感度を上げて行くというもの。そこには悪役と言える悪役令嬢等も登場したりする。パラ上げや、好感度を上げるだけでは攻略キャラを落とせないのだ。


 攻略キャラクターは、メインに第二王子。他に悪役令嬢の義兄、学園の不良(王弟の息子)、庶民の特待生(ヒロインの幼馴染み)と、隠しキャラがいる。


 私は、どの攻略キャラクターも好きだったけど。特にメインの俺様キャラである、第二王子が一番好きだった。


 もう一度、言おう。“好きだった”と。うん、過去形だよ。


 だって。もう過去、だからね―――……









 「はあ? お前みたいな平凡が俺様の婚約者だと!? フン、冗談じゃない!」


 フツーの貴族のお嬢様、ましてや高位貴族のお嬢様ならば、婚約者からの失礼発言にメソメソと涙してしまうかもしれないけれど。

生憎と私の神経はそんなに繊細ではない。(こちとら仕事でアラサー、アラフォーのお局共と、バーコードハゲの脂ぎった上司オヤジに散々メンタルを鍛えられていたんでね!)


 『あんたみたいなバカが私の婚約者ですって!? ハッ、冗談はそのカールした前髪だけにしろよ!毟るぞコラァ!』


 「…って、言いたいわぁ」


 小さく溜息を吐きながら、呟いた。


 目の前でキャンキャン騒ぐ血統書付きの子犬(駄犬)もとい、第二王子をぼんやり見てみると。

 見た目だけは金髪碧眼の可愛らしい天使のようだが、中身はただの我儘で傲慢なクソガキだった。こんなのが婚約者とか嫌すぎる。


 そんな風に考えながら、右から左に駄犬バカ…じゃない。第二王子バカの話を聞き流していた。


 この時。第二王子バカ、八歳。私、リリーシャ・ハーシェル。八歳。


 八歳、と言っても。お気づきかとは思うが、私は前世の記憶を持つ転生者だったりする。

 なので…この先の展開も、自分の立ち位置も解っているつもりだ。


 私は『真実の愛を探して』略して『真愛しんあい』の第二王子の婚約者。家族構成は侯爵位を持つ父・母・幼い頃、家に引き取られた父の親友の息子である義兄・私・妹の五人家族。


 そして――…


 ヒロインを疎ましく思い、ヒロインの恋や学園生活で意地悪をし、最後には第二王子に婚約を破棄され、国外追放となる悪役令嬢。


 …――それが、私。リリーシャ・ハーシェルである。


 バk…第二王子との顔合わせの日から、少しの期間が過ぎたある日。

 王妃様のお茶会に招待された為、私は王城からの送迎の馬車に乗り王城へと向かった。


 そして、案内された王妃様お気に入りのバラ園には、白く大きな丸いテーブルが置かれており、そのテーブルの上にもバラが飾られていた。とりあえず、王妃様はバラが大好きなんだなと思った。


 えーと。そこには、穏やかな笑みを浮かべた王妃様と、バ…第二王子。他に私よりも幾つか年上に見える男の子と女の子が席に着いていた。


 恐らく、第一王子のフリードと婚約者のエレーナだ。『真愛』で立ち絵だけだったけど、見た覚えがある。あ、そのまま大きくなるのね、二人共…という感じ。


 「遅くなりまして申し訳ございません。リリーシャ・ハーシェルでございます。王妃様、本日は、お茶会にお招き頂きましてありがとうございます」


 挨拶をして、淑女の礼をすると。王妃様は、にこやかに応対してくれて。将来、貴女の義兄と義姉になる子達よ…と。フリードとエレーナを紹介してくれた。


 せっかく紹介してくれたのに申し訳ないが、それ(キョーダイになる事)はないと思いますよ、と。心の中で謝って置いた。


 ちなみに。第二王子バカは、ふんぞり返って椅子に座っており、バカにしたような笑みを私だけに向けて来ていたので、鼻で笑ってやったら、椅子から転げ落ちていた。やっぱりバカなんだね。






 お茶会の後。王妃様や第一王子達に挨拶をし、帰ろうとしていたら。


 「おい、待て。お前に話がある」


 第二王子に呼び止められた。チッ、何の用だよ。いや、待てよ。私は名前を呼ばれた訳ではないんだから、このまま帰っても良いよね? うん、そうしよう。


 「おい、無視するな! ハーシェル侯爵令嬢!」

 「あら、私に御用がおありですか? 何でしょうか、殿下」


 とりあえず、嘘臭い笑みを浮かべながら振り返ると、第二王子に手首を掴まれて、そのまま引き摺られるようにして庭園を後にした――…




 庭園から少し離れた場所で、私の手首から手を離した第二王子は仁王立ちをしていた。アホっぽい。


 「お前。先程の茶会の時、俺様の事を鼻で笑っただろう! まあ、俺様は心が広いからな! 皆の前では咎めるのを我慢してやったんだぞ。だから、今ここで。俺様に謝罪をすれば許してやろう」


 フフンと偉そうな態度に、デコピンでもしてやろうか、コイツ。という気になってくる。


 「殿下の気のせいではありませんか? 私が殿下の事を鼻で笑うなど―……」


 ありません。とは言いません。笑ったからね、実際。


 「なっ、嘘付くな!」

 「ついていませんわ」


 なんだ、なんだ。坊っちゃんは心が広いんじゃなかったのか? ん?


 「そんな事よりも」

 「そ、そんな事だと!?」


 そんな事だよ。下らない。


 「殿下は先日、八歳以上から十二歳までの王族・貴族の子息、子女が受ける王立学園初等科の学力試験はお受けになられました?」


 まあ、実力テストみたいなものだね。


 「? 勿論うけたが?」

 「それでは、殿下のご順位をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 そう尋ねると眉を顰めた。何が言いたいんだコイツは? とか思っているのだろう。


 「…そんな事を聞いてどうする?」

 「いえ、私の婚約者である第二王子は優秀な方だとお聞きしているものですから、お尋ねしたくなりましたの」


 “優秀な”の部分が効いたのか第二王子はフフンと得意げな顔をして―…


 「一位だ」


 と、ドヤ顔。本当わかりやすいな!


 「まあ!本当に優秀でいらっしゃいますのね!」

 「それ程でもない。ついでに聞いてやろう。お前の順位は何位だったんだ?」


 あ。コイツ、自分が優位に立ってると思って、バカにする気だな。そうはいかないんだけどね。


 「私も一位でしたの。お揃いですわね?」


 そう。第二王子が受けたのは低学年の部の試験だろう。


 そして、私が受けたのは――…


 「どういう事だ!? 一位は俺様一人の筈だぞ!」

 「ええ。低学年の部で、ですわよね?」


 そこまで言うと何かに気づいた第二王子がハッとした表情を浮かべた。


 「ま、まさか。お前が受けたのは…」


 おっ? ちょっとは賢いみたいだ。


 「はい。高学年の部です」


 イイ笑顔で言ってやった! 転生者ですからね、本当はもっと上の学年の試験でも、ドンと来いですが…目立ちたくないし、目を付けられたくもないので(誰にって? お偉い方々に、とでも言っておきましょうか)初等部・高学年までに留めておきました。




 しかし、この時。つい大人気なかった態度を取ってしまったせいで。(だって、わたし。八歳の女の子だもん! 第二王子にイラッとしたんだもん!)

 第二王子の何かに火をつけてしまったらしい。勿論、精神的に。





 それからと言うもの、私は王立学園高等部。つまり『真愛』の舞台になる場所でまで、対抗心をメラメラと燃やした第二王子に絡まれ続けていたりする。やべー、やりすぎちった! テヘペロ! 状態である。


 私もそれに対して、つい返り討ちにしてしまうものだから、もう、それが日常の一部と化してしまっていた。(そういや、未だにヒロインらしき子の姿を見かけないな…どうしたんだろう?)


 …――そして、今日も。


 「あら? 殿下、鼻息荒くしてどうなさいましたの? 宜しかったら、殿下も紅茶をいかがですか?」


 食堂にあるオープンテラスで、紅茶を飲んでいた私のもとに走って来たのだろう彼へ、ホホホと笑ってみせると『紅茶はいらん! そして、その嘘笑いを止めろ、気色悪い』と言われて。


 「失礼だな。まあ、近くに他の人も居ないしいいか。で? 何の用ですかー?」


 素の自分で対応する事にする。


 「…お前、剣術の授業の勝ち抜き戦で一位になったというのは本当か?」


 ああ。どの位の腕前かを教員が知る為にやったアレね。


 「本当ですけど、それが何か?」

 「お、俺様と勝負しろ!!」

 「私も先程、剣術の授業を終えたばかりで疲れているのです。私は脳筋じゃないんですよ。嫌です。面倒くさい」

 「な、ならば! 次回からは俺様と同じ時間帯の剣術の授業に出ろ!」

 「お断り。面倒。ズズー!」

 「おい、ちゃんと会話をしろ! 音立てて紅茶を飲むな!」


 この人、からかうと結構面白いよねー。 


 最近何だか、俺様ヘタレみたいになってるけど、これならもう少しだけ付き合って上げても良いかな? なんて思っていたりする。


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