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プロローグ的な「私はこうして死にました」

「死後の世界に興味はおありですか?」 

死んだあと人がどうなるのか、書いてみようと思って己の欲に負けた一作です



 太陽が山の向こうに沈み始める夕方の時間。

 とある学校はこの時間が下校の時間になっており、学校付近の道路は下校中の学生で賑わっていた。

 そんな中に彼女は紛れ込んでいた。

 実に当然に、そしてさりげなく。

 何も疑う様子すらなく、彼女はその道を歩いていた。

「ふんふーふんふん……」

 軽快に鼻歌などを口ずさみながら、大好物の“完熟メロンソフト”を片手に周りにいる生徒たちと同じように自宅へと向かう。

 本当は学校の規則で買い食いは禁止されているのだが、彼女にとってそんなものは関係ない。

 今日はなぜかどうしてもアイスが食べたくなって、近くにあるコンビニに行って買ってしまった。

 いけないこととは言うが、ほかの生徒もそんなことは気にしていない。みんなコンビニなり駄菓子屋なり行ってお菓子やジュース買っては雑談をしながら家に帰っている。

 みんなしていることなのだ。

 みんなと同じように、買い食いをして雑談して家に帰って。

 毎日続く当たり前の生活。

 あまりにも退屈で、でも当たり前にある人生。

 なにも。

 何にも違うところなんてない。

 なのに、ここで彼女が、彼女だけが選ばれて悲劇にあってしまったのはどうしてだろうか

 あまりにも理不尽で、突拍子もない。

 現実はいつだって無情なものだと思う。



××××××××××××



 それはあまりにも唐突だった。

 何が起きたのか、自分がどうなったのか、いまだにわからない。

 アイスを食べながら家に向かっていて、小さな石に躓いた先に大きなトラックが目に飛び込んできた。

 あのあと、私はどうなった?

 ほんの一瞬だけ、体中を駆け巡る強烈な痛みを感じた。

 あとは、何もない真っ暗な世界。

 本当に何もない、何も見えない、誰もいない、そんな世界。

 怖い。

わたし、どうしちゃった?

 なにがあったの?

 混乱する頭に、少しずつ届く声。

 誰のものかわからない、でも必死な声。

 どうしてだろう、目が開かない。

 誰かが呼んでいるのに、はやく……返事しないと。


 驚くほど重たい瞳を開けると、そこに映ったのは見知らぬ男の顔だった。

 眉間にしわを寄せて何か叫んでいるが、よく聞こえない。

 誰だろう。そんな必死になって何を言っているの?

 とにかく寝たままでは失礼だろうと起き上がろうとするが、どういうわけか体に力が入らず、指の一本も動かせない。

 あれ、動かない。

 なんで?


「――ぃっ、おい、聞こえているか!? おい!」


 訳が分からずさらに混乱している頭に、今度は実にクリアな声が飛び込んできた。

 どうやら自分を覗き込んでいる男のものらしい。

「……ぁ、だ……いじょ…………ぶ」

 あまりにも必死な声に、しっかりと答えたつもりだったのだが、今にも消え入りそうなほど弱々しい声に彼女が一番おどろいていた。

「いいしゃべるな。今救急車を呼んでるから、それまで頑張れ!」

 頑張る?

 この人は何を言っているのだろう。

 それに、なんでこんなに人が集まって、私を見下ろしているのだろう。

 わからない。

「……ぁ」

 そんな彼女の耳に、どこからかひきつったような声が聞こえてきて、彼女はかろうじて自由に動かせる瞳を辺りに彷徨わせた。

 それで納得がいった。

 こんなに人が集まる訳も、男の人が血相を変えて携帯電話の向こうに叫んでいる理由も、人が悲しそうに自分を見ているという事情も。

 全部に納得がいった。


 私は、きっと……。

 ここで死ぬのだろうな。


 そう思った瞬間、彼女の心に恐怖が芽生えた。

 自分はここで死ぬ。

 いなくなる。

 大好きなアイスも食べられなくなるし、友達とも遊べなくなる。

 約束したのに、それも守れなくなってしまう。

 怖い。

 死ぬことが、怖くて仕方がない。

 こわい。

 もっとしたいことがあったのに。もっと、皆に言いたいことだってあった。

 最後になるなら、お別れの言葉くらい言いたい。

 けれどそれもかなわない。

 自分はここで終わるのだ。

 それがどうしてか自分には、はっきりわかった。

「――すまない」

 自分のする苦しそうな吐息の音に混じって聞こえてきた声に、彼女は目を向けると、赤く染まったトラックの前で今にも泣きそうな顔をしている細身の男と目があった。

 瞬間、男の肩がひどく驚いたようにビクッとはねる。

 いかにも気弱そうな、若い男だった。

 見たところ、運転していたのは彼なのだろう。


 帰る最中だった。

 道沿いを歩いていたら彼女は石に躓いて、あろうことか道路側に転んでしまった。

 そこにスピードを出したトラックが突っ込んできたのだ。

 数百メートルもの長い直線である道路では、よく車がスピードを出して走ってくることが多い。

 しかしそれでも今まで事故はなかった。


 突然目の前に人が飛び出してきて、それをはねてしまった。

 申し訳ないことを……したよな。

 彼女はそう思って、ふと目を細めた。

 そして……、

「お、おい! 動いちゃダメだ、おとなしくっ」

 ちょうど救急車を呼び終えたのだろう男の言葉を無視して、彼女は残りわずかな力を振り絞って立ち上がった。

 痛みはない。

 ただ体中のだるさというか(脱力感とでもいうのか)がものすごい。

 あと、ひどく寒かった。

 何とか立ち上がった彼女は、驚くほどしっかりと立ち上がると、数歩先にいる運転手であろう男に近づく。

 たった数歩しかない距離が、今の体ではまるで一日中歩いた時みたいに疲れてしまっている。

 へんなの。ちょっとしか歩いてないのに。

 少しだけ、こんな状況なのにもかかわらず面白いなと思った。

 そして男の目の前に立つ。

 もう、歩くことはできない。

 これ以上歩こうとしてみても、きっとそのまま倒れてしまうだろう。

 彼の顔を見上げることもできず、その胸元に視線を向けたまま必死になって口を開けた。

「怪……我は」

 今度はさっきよりきちんと言えたはずだ。

 そのまま、返答を待っていると、頭の上から震えた声が返ってきた。

「な、ない」

 おびえているのか、震えているように聞こえる。

「そ……ですか」

 彼女は安心したようにつぶやくと、今度は違うことを呟いた。

「ごめ、なさい」

「え?」

 予想に反した言葉に、男は目を丸くする。

「いきなり、飛び出して……。何も、怪我が、なくて……よか、た」

 そういうと、彼女は渾身の力を入れて顔を上げた。

 いま、自分の顔がどうなっているのかはわからない。

 かすり傷だけかもしれないし、自分の血でべったり汚れてしまっているかもしれないし。

 後者であればホラーだろうな。

 それでも、彼女はおびえて立ちすくむ男に、


 今までで一番の笑顔を向けた。


 男はハトが豆鉄砲を食らったような顔のままで固まった。

 しかしその顔を確認することもできず、彼女は力尽きて傾いた体が地面に落ちるより前にその意識を手放していた。


 これが、彼女の生きた世界での終わり。

 しかし世界での歯車は、もうすでに回されていた。


はい、まけまくりですねすいません。

むしろ勝つつもりすらなかったようにも感じられ……。

いえ、何でもありません。


ありがとうございました。

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