約束を果たしに(エピローグ的なものです)
とある吸血鬼が気まぐれに愛した物から離れ、気が向いたら帰ってきてあげる。そういった後何十年も先の話。
ショートです
時刻は午前1時を回って少し。
夜でも昼間と同じくらい、あるいはそれ以上に賑わうアメリカのニューヨーク某所。
明るいネオンと煩いくらいの車の音に、町は相変わらず賑わっていた。
立ちならぶビルにそこから出てくる高級車の数々。
その中を歩いていく12歳くらいの少女がいた。
黒く艶のある長い長い髪を風に揺らし、年に似合わない鋭い瞳で町を見つめる。
もう季節は冬に近いというのに、足元まである白いワンピースにスカーフといった格好だ。
しかし何故かそんな彼女に目を向ける者はいなかった。
彼女自身が人の目を避けるような、特別な力を行使しているのだ。
そんな中、少女は威厳に満ちた、堂々とした気配をまとって町の中を歩いていく。
目的地は特にない。
少女はただただほしい物を手に入れるために世界を旅している。
気が遠くなるほど長い間、ずっと一人で。
一時期、一定の人間と一緒に過ごした覚えがある。
しかし少女は既にそのことを覚えてはいなかった。
実にめんどくさそうな、それでいて何の感情も示さない顔と瞳で、町の中を歩いていく。
その時、彼女の目に何かが移り込んだ。
『madam,
beloved you』
“拝啓、最愛の貴女へ”
一見手紙を思わせるそのタイトルに、少女は足を止めた。
店頭販売なのだろう。店の前に何十冊も並べられている本の一冊を手に取る。
表紙は実にシンプルで、夜の星が散らばる夜空と、それを映す暗い海。それをバックに白いワンピースを着た髪の長い女が、肩ごしにこちらを振り返っている。タイトルは、そんな彼女の上と下にそれぞれ分けられて印刷されていた。
少女はしばらくそれを見つめて、その表紙を開いた。
書いた人間の名前は、
Syogo Hyuma
ひゅうましょうご。
日本人らしい名前。そしてどこかで聞いたことのあるような。
何となく違和感をきにしながら、少女はページを一枚めくった。
『僕は彼女を愛していた。』
一瞬本を閉じてやろうかと思うが、次に飛び込んできた言葉に、少女は目を奪われた。
『そして彼女は吸血鬼だった』
珍しいことにそこから目を離すことができず、そのまま読み進める。
すると少女は、まるで何かを諦めたかのようにクスリと笑った。
全部思い出したのだ。
一時期ずっとそばを離れなかった人間のこと。
自分を仇だといって襲いかかってきた勇敢なもののこと。
「懐かしい……」
少女は呟いた。
あれから随分と立つ。どうして自分は忘れていたのだろう。
こいつは今でも、自分を想っているだろうか。
少しだけ気が変わった。
いつか行ったあの地に行ってみるのもいいかもしれない。
何千年もの時を生きた彼女は知らない。
今自分が、どれほど幸せそうな笑顔を浮かべているのか。
知らないままに、彼女は唐突にその場から姿を消した。
自分を最愛と言ってくれた、愛する者ののもとに戻るために。
そして約束を果たすために……。
こんな感じで書いていきます。
ありがとうございました。