ループものって怖くね? ~何度も人生やり直してるからRTA(リアルタイムアタック)始めた~
RTA動画って、馬鹿みたいなことを真面目にやっていて面白いです。
……というわけで、俺は悪の魔王を倒した。
長く苦しい戦いだったが、幼馴染であり親友でもある三人の仲間達のおかげで乗り越えることができた。
報せを聞いて、国中の人間が俺達を英雄として賞賛し、感謝してくれた。
世界は平和になり、俺達は戦いのない安穏とした生活を送った。
でも、数日後、俺は死んだ。
階段を踏み外して転がり落ち、頭を強く打ったのだ。
世界を救った英雄にしては、なんともまぬけな死に様だった。
気が付くと、俺は赤子になっていた。
俺の顔を覗く両親の顔は、先日会った時よりも若く、皺の数も少なかった。
俺は最初混乱したが、月日を経るごとに事態を理解していった。
どうやら俺は、産まれた時から人生をやり直しているらしい。
世界を救った者に対しての神様からのご褒美なのか、戦いに力を貸してくれた精霊のご加護のせいか、それとも、魔王が死に際に放った呪いのせいか、本当のところは解らない。
でも、現にこうして俺の体は小さく縮んでしまっている。受け入れざるを得ない……。
俺が倒す前の時代なのだから当然だが、魔王は健在で、世界は魔物達で溢れ、人々は怯えた生活を送っていた。
……つまり、もう一度、一からやり直し。という訳だった。
俺は十六歳になると、幼馴染であり親友の仲間達を伴い、二度目の魔王討伐の旅に出た。
出没する魔物の種類も、訪れた村の人々の事情も、起こる事件も、全て前の世界と同じものだった。
俺は手際よく敵の弱点を突き、困っている人達に必要な物を渡し、難事件を解決したていった
仲間達は快刀乱麻のごとき働きを見せる俺に目を丸くした。
『頭が切れて頼れる勇者だ』と評されもした。
旅はスムーズに進み、すぐに魔王の元へと辿り着いた。
もちろん、魔王の行動パターンも覚えている。俺たちは苦戦することなく、魔王を倒した。
以前の世界よりも随分早く、月日にして半年以上、期間を縮めてのゴールだった。
ようやく平和な世界がやってきた。
俺は階段の上り下りに細心の注意を払って生活を送った。
でも、数日後、俺は死んだ。
今度は、溺れる子犬を助けようと川に飛び込んで、情けなくも自分が溺れ死んでしまったのだ。
気が付くと、俺は赤子になっていた。
またかよ!
俺は三度目の世界も、平和に導いた。
そして数日後にまた死んだ。
毒キノコを食べたことによる中毒死……なんで格好いい死に方ができないんだよ!
そして当然のように、赤子からの人生が再スタート……。
それを何度も繰り返した。
俺はどうやってもそのループから抜け出す事はできず、そして死に方はいつもダサかった。
七度目か八度目の人生が始まる頃には、俺は生きがいも何もかも、失っていた。
これから起こる物事は、全て予定調和な既知のものだけ。未来を知るということは、未来を失くすことと同義だった。
腑抜けた生活を送った後、俺は魔王との戦いに敗れ、殺された。初の敗北。
世界は暗黒に支配されてしまった。
でも、気が付いた時には赤子だった。
このままではいかん。頭が狂ってしまいそうだ。何か一心不乱に頑張れるような、目標を作らなければ。と思った。
人生一周分を費やし考えた結果、RTAをやろう! という結論にいたった。
RTAとは、簡単に言えば『スタートからゴールまでの所要時間の短さを競うゲーム』だ。
つまり、いかに短い時間で魔王を倒せるか、それを追求するのだ。競う相手は、以前の人生を送った自分自身。
しかし五歳や十歳では、まともに魔物と戦う事もできず、体が小さいから武具だって装備できない。したがってスタートは、十六歳になって魔王討伐の旅に出る時。とした。
たしか今までで一番早い記録は、半年弱だったはずだ。とりあえずそれの更新を目指そう。
世界の事情は全部頭に入っている。
俺は魔王打倒に関係のないイベントは全てカットしていった。
村を救ったお礼に貰える武具やアイテムなど、後半に訪れる町で売られている物に比べれば屁みたいなものだ。時間のロスでしかない。
国単位の問題を抱える王様を無視し、ただの商人のさらわれた娘を救出した。商人は礼として船をくれるからだ。
雑魚敵との戦闘は、ほぼ逃げた。そっちの方が時間短縮になるから。
レベルは低いままだったけれど、旨味の少ない戦闘をする意味は無かった。
そのことで、仲間達は不満を述べた。勇者らしくないと。
しかし、旅が進み、出現する敵の強さが増してくると、そういった事は口にしなくなった。レベルが低すぎて、その地域の魔物と戦う事などできなかったからだ。
洞窟の最奥で、逃げるのに失敗した時は肝を冷やした。一撃で、仲間の二人が瀕死の重傷を負ってしまったのだ。なんとか隙をついて逃げ出す事には成功し、ありったけの薬草で傷の手当をした。
仲間は、もう帰りたい。と泣いていた。俺は泣いている時間ももったいないと言って、先を急いだ。
旅を始めて十五日、離島にある名も無き村に到着した。俺が当面の目的地にしていた場所だ。
辺鄙で寂れた村なのに、何故かここには超強力な武器防具を取り扱っている店があるのだ。
それまでほとんど使わずにいたお金を、注ぎ込んで『業火の剣』を四本買った。防具に裂く余剰金は無かった。俺たちは未だに布の服を着ている。
この『業火の剣』は優れもので、かざすだけで、剣先からその名の通り炎が噴き出すのだ。その威力は凄まじく、大抵の雑魚敵なら瞬殺できる。
これをいち早く手に入れる為だけに、今まで低レベルの無理な行軍をしてきたのだ。
これぞ、幼少期の暇な時間に考え出した『業火の剣チャート』だ。
装備できるのは俺一人だけだったが、仲間全員に持たせた。
もうその後は、一転攻勢。今までの恨みを晴らすがごとく雑魚敵共を焼き尽くし、レベルとお金を稼いだ。
しかしさすがに、ボス相手では一発でしとめる事はできなかった。
けれどその頃には、防御力を上げる呪文を覚えている。それを重ねがけすれば、ボスからの攻撃など微々たるものだ。
少し時間はかかるが、まず負ける事のない戦いだった。
必要なイベントが終わる頃、上手い具合にお金も貯まった。俺たちは再度、離島の村を訪れ、最高の防具を購入した。
これで魔王撃破の準備は整った。
俺たちは魔物に滅ぼされかけている町を素通りして、魔王の居城を目指した。
敵の本拠地とはいえ、業火四連発を止められる敵はおらず、あっという間に魔王との(何度目かの)ラストバトルが始まった。
戦略は基本的に今までと同じ。補助呪文をかけて『業火の剣』を掲げるだけだ。
しかし、さすが魔王。体力は今までの敵と段違いに多い。戦いは三十分以上の長期戦になった。
それでもやっぱり、俺達に負ける要素は無く、魔王はいつも通り、呪いの言葉を残しながら倒れた。
五十三日と六時間四十三分。
正式なRTAを始めて、最初の記録としてはまずまずだろうか。
あとは、この『業火の剣チャート』の細かいところを修正して、小さなミスを無くしていけば、記録はさらに早まるだろう。
……その予測は外れた。
その後の五周間、記録は全く伸びず、頭打ち状態だった。
『業火の剣』を手に入れるまでに、運の要素が強すぎるせいだ。
低レベル故に、敵から逃げられずに瀕死や全滅する事が多発した。
何か、根本的にやり方を間違えているのだろうかと考え始めた旅の後半。
仲間に飲ませようとした聖水(マジックパワー回復アイテム)を、手を滑らせて誤って敵にかけてしまった。
瞬間、敵は苦しみもだえて絶命した。
聖水に敵へのダメージ効果がある事に、十数回の人生で初めて気が付いた。
その周のRTAは一時中断して各地の敵で
試してみると、雑魚敵はもちろん、ボスにまでその効果はあった。
しかも並大抵のダメージではない。ほとんど一撃死という、とんでもない威力だった。
そして当然、なのか意外にもなのか、それはラスボスである魔王にさえ効力を発揮した。
赤子として目覚めた時、俺は『業火の剣チャート』を破棄し、『聖水ガン攻めチャート』に乗り換えることにした。
聖水はどの町にも売っているポピュラーな品物だ。最短ルートで立ち寄った町で、買えるだけ、持てるだけの聖水を買い込む。
雑魚敵戦は一切逃げず、聖水をばら撒くことで瞬殺した。おかげで逃げミスする危険が無くなった。
離島の村へ立ち寄る必要が無くなったので、大幅に移動時間が短縮された。
さらにさらに、敵とまともに戦う必要がないので、武器防具を買い揃えるお金と手間すら無くなった。
良い事だらけの最強チャートだった。
魔王の前に立った俺たちは、最初期の布の服のままで、武器すら持ってはいなかった。
「よくぞここまで来た褒めてやろ、おばぁ!」
長ったらしい前口上を垂れる魔王に、俺は問答無用で聖水をぶっかけてやった。
いつも以上に苦しげな叫びをあげて、魔王は即死した。
タイムは……なんと二十八日と十時間二十六分。
大幅に記録を更新できた。
やったぜ!
でも、常識的に考えて、これ以上タイムを縮める方法はないだろう。
所要時間の大半が移動時間で、しかも反則みたいな技を使って、このタイムなのだから……。
もうRTAにも、張り合い無くなっちゃったなぁ……。
そんな事を考えていたら、帰り道で躓き転んで火山の火口に落ちてしまった。
当然、俺は赤子だった。
これからどうしようかなぁ。
とりあえず、出発点の村の近くでレベル99まで上げてみようかな……
おしまい
こんなバランス崩壊のバグがあるゲームは、確実にクソゲーですね。