二日目その一
あの部屋から出て二日目。
一日目はあの後も衛兵長を追跡していたが、変化はなくターゲットをクリスの周辺にいる人物……使用人たちに絞ってみた。
別段、彼らを信頼していないというわけではないのだが、思わぬ何かがある可能性があるという考えからだ。
本当なら、国王を尾行するのが一番いいのだろうが、肝心の国王が本国へ行ってまだ帰っていないため、それはあきらめている。
彼の帰国は早くてもクリスがあの部屋から出た後であるし、そもそも、クリスの解放が決まるより前もクリスの監禁について何か行動をしている様子は見受けられない。
良くも悪くも彼はこの件には深くかかわっていないような印象を受ける。
果たしてそれが、裏で指示をしているだけでそう見えているだけなのか、はたまた知りながら何もせずに関わらないでいるのかのどちらかはわからないが、全く何も知らないということはないはずだ。
そうなると、彼の動向も多少は気にする必要がある。
「さて、今日もクリス様はおられないが、掃除等はしっかりと行き届かせるように」
「はいっ!」
今、メイの目の前で朝礼を行っているのは、つい最近新しくメイド長に就任したリリーだ。
前任のメイド長が突然失踪したために抜擢された人物であり、ある意味で王宮側からの意志を強く受け取っている人物ともいえる。クリスはこのあたりのことをしっかりと把握していないが、メイの中では要注意人物の一人になっている。
彼女はてきぱきと指示を終えるとそのまま廊下へと躍り出る。
クリスの部屋へ掃除に行くメイドや王宮の皆のための昼食の用意をしに行くメイドたちを見送り、彼女はそのまま洗濯場へと向かう。
この状況からして、おそらく職場を一通り見て回るつもりなのだろう。部屋の中で胡坐をかいているわけではないし、彼女自身メイドとしての才能もメイド長として周りをまとめ上げる才能もあるように思える。
だが、そこがまた怪しい。
彼女はこれまでクリスのメイドたちの中にはいなかった人間だ。
全員メイド長が失踪した直後に最初からそう計画されていたかのようなタイミングで現れ、あっという間にその座を確かなものとした。
実を言うと、彼女がメイド長になるまでの間にメイド長代理を務めていた人物がいるのだが、どういうわけか彼女も姿を消している。
二人の失踪という事件の上に立つメイド長は疑うなという方が難しい。
しかしながら、これまでの間に尻尾という尻尾を出したことは一度もなく、なんとなく実はタイミングが怪しいだけで実は悪者でも何でもないのではないかと思い始めているというのもまた事実だ。
ただ、今回は彼女の動向について確かめる必要があると判断したため、こうしている。
仮に今回のことにリリーがかかわっているのなら、それなりの行動を見せるはずだ。それこそ、洗濯場へ行くふりをして別のところへ行くかもしれない。
そう考えながら彼女の背中を追いかけていると、彼女は途中でほかのメイドから洗濯物を受け取り、そのまま洗濯場へと入っていく。
「どう? 仕事の調子は?」
「はい。順調です」
「そう。之も頼んでもいいかしら?」
「はい。わかりました」
洗濯場の中から聞こえてくる会話は普通の会話だ。
中まで入って行こうかとも考えたのだが、そこまでする必要はないと判断して今は洗濯場の屋根の上だ。
「それでは、私は次のところへ行くので、あとは頼みましたよ」
「はい」
そのままメイド長は何事もなく洗濯場から出てくる。
若干、昼寝しそうになっていたメイは慌てて彼女の背中を追いかけて洗濯場を離れた。




