一日目その三
王宮の奥のほうにある区画を見ながらメイは大きく息をつく。
この場所で見張り始めてから一時間は経過しているだろうか? 報告とやらが長引いているのか、全く出てくる気配はない。
別の出入り口から出たのだろうかとも考えたが、メイの追跡に気づく可能性はどう考えてもないため、普通に考えればここから出てこないとおかしいはずだ。それとも、衛兵長はもしもの場合を警戒して、入った時と同じ出口から出ないという考えで動いているのだろうか?
いずれにしても、このままでは拉致が開かないというのは確かな事実だ。
何とかして中に入れないものかと画策してみるが、そう厳重に結界を用意しているようで入れるような隙間は全く持って見つかる気配がない。
ほかの方法での干渉はできないかと探ってみるが、メイとてあまりこちら方面には詳しくないのでなんとも言い難いところだ。
『さて、このまま出てこなかったらどうしようかしら……』
もしも、衛兵長はじめこの部屋の中にいる人間が別のところから外に出た場合、ここにいるのはとんだ無駄骨になる。
一番いいことはすべての出入り口に監視を付けることだが、メイの体が一つしかない以上はそれはできない。
そんなことを考えているうちに、目の前にある扉がゆっくりと開いた。
『おっやっときたみたいね』
暇を持て余していたメイは扉から出てくる人物の姿を見逃すまいと目を見張る。
出てきたのは衛兵長だ。
彼は部屋から出るなり、カツカツと靴音を立てて歩き始める。
メイは彼のあとを追いかけるのか、それともこの場の監視を続けるのか迷ったが、衛兵長と違い別の人物がここから出てくるとは限らないと踏んで衛兵長のあとを追いかけることにした。
別に彼がどうというわけではないのだが、黒幕に関する情報をぽつりと独り言で漏らしてくれないかなどというくだらない期待に沿っての行動である。もちろん、本来の目的はもう少し別のところにあるのだが……
そのもっともたる根拠は現状、判明している中で彼が一番黒幕に近い可能性がある人物だからだ。
もしかしたら、彼が会うのはこの部屋の中にいる人物だけではないかもしれないし、先ほどから期待している独り言のように何かしらのヒントをくれる可能性も否定できない。
つまり、ここでいつ姿を現すかわからない人物よりも、よりヒントが得られる可能性が高い衛兵長を監視し続けるほうがいいという判断を下すということに至ったのだ。少なくとも、あの場所で待ちぼうけを食らうよりはそれの方がましのはずだ。
衛兵長は一言も言葉を発することなく、無言で廊下を歩いていく。
このままでは期待していたことが起きないかもしれない。
そう考えた矢先、衛兵長は唐突に進路をまげて、近くにある部屋へと入っていった。
そのことに驚いたメイは急いで彼の背中を追いかけて扉を抜ける。
幸いにもその扉には先ほどの部屋にあったような結解はなかったのであっさりとすり抜けることができた。
「どうもお久しぶりですね。直接会うのはどれだけぶりでしょうか?」
部屋に入るなり、衛兵長が口を開く。
メイは彼の言葉を横耳にゆっくりと室内の様子を探っていく。
そして、部屋の暗がりにある人影を見てハッと息をのんだ。
「えぇあなた様が自ら足を運ぶとは……いったい何の用ですか? マミ殿」
部屋に置いてある椅子に座り、怪しい笑みを浮かべていたのは、アンズが居候している家の主人であるマミだった。
「さて、あのお方と何を話したのか、聞かせてもらいましょうか」
マミは怪しげな笑みを張り付けたままそう告げた。




