一日目その一
王宮の奥の奥の部屋から王宮の中にあるとある廊下につながっている地下通路。
衛兵長からの通達を経て、クリスから外の様子を見てくるようにと言われたメイはこっそりと衛兵長の後を追っていた。
別にメイの姿は他人には見えないのでこっそりとする必要はないのだが、いまだにただの人間だったころの癖が抜けないのか、物陰に隠れながらひっそりと彼らの後を追っていく。
「それにしても、また唐突ですよね。この前は王女様をあそこに監禁しろというか、今度は直ぐに開放しろなんて……」
「文句を言うんじゃない。これが我々の仕事だ」
不満を述べる若い衛兵にたいして衛兵長からの鋭い指摘た飛ぶ。
しかし、その程度では若い衛兵の気は収まらなかった。
「しかしですよ! あの部屋は!」
「黙れ。あの部屋のことは他言無用。我々衛兵と一部の人間のみが知るべき事実だ。そんな大声で誰かに聞かれたらどうするつもりだ!」
メイは若い衛兵が言いかけた、あの部屋のことが引っかかるが、それは後で調査すればいいと判断して衛兵たちの会話の続きに耳を傾ける。
「とにかく、私は反対です。クリスティーヌ姫の安全を考えてもあそこからお連れするのには早すぎます」
「……上の命令だ。我々は従う以外の選択肢はない」
「……わかりました。従います」
上の命令だという一点張りの衛兵長の言葉でようやく若い衛兵はおとなしくなる。
その肩を熟練の衛兵がトントンと叩いた。
「まぁお前さんの気持ちもわからなくはないさ。私も昔はそうだった。でもな、今は違うんだよ。この仕事には時に何も考えずに駒になることも必要だ。それはちゃんと頭に入れておいてほしい」
「はい」
そのあと、三人の衛兵は大した会話もなく冷たい通路に足音を響かせながら歩いていく。
短い会話ではあったが、メイからすれば十分な情報のヒントを得られた。
クリスを今、出すと危険だという根拠を今すぐにでも探したいところだがもう少し何かがほしいと思い、メイは衛兵たちの追跡を続ける。
衛兵たちは迷うことなく複雑なルートを進んでいき、やがて王宮の廊下においてある棚の裏にある入り口に出る。
「見張りご苦労様」
入り口で状況を見張っていた衛兵に声をかけながら衛兵長が廊下に出る。
「それでは私はあの方への報告を行ってくるから、皆はそれぞれ元の配置につくように」
「はっ!」
至極単純な指示を出した衛兵長はそのまま踵を返して、廊下を歩き始める。
メイは一瞬の迷いすらなく衛兵長の背中を追いかけ始めた。
「それにしても、このままでは私も衛兵長失格だな。部下にあのような説明しかできないなど……私も不満といえば不満なのだがな……」
衛兵長はそんな風につぶやきながら頭の後ろをかく。
どうやら、彼は彼なりに悩んでいるようだ。
「まぁでも、逆らうわけにはいかないし……まぁやるしかないよな」
そうぼやいた後、衛兵長はかるく周りを見回してから何事もなかったかのように歩き始める。
『どこへ行くのかしら?』
彼が向かっているのは間違いなく、クリスの監禁や解放を命じた人物だ。
そうなると、先の二人の体が入れ替わるという事件にも何かしらの形で関係している可能性もある。
メイは先ほどまでのようにこそこそと隠れるのをやめて、衛兵長の背後にぴったりとついて王宮の廊下を進んでいった。なお、その途中で何度か、衛兵長が振り向いたり、さむがるようなそぶりを見えたのは気のせいだと信じたい。




