三日後
王宮の奥の奥の部屋に監禁されてからどれだけ経ったかわからない。
しかし、この部屋に再び衛兵長が訪れたことで前に彼が来てから三日経過しているという事実を示していた。
たったの三日といってしまえばそれだけだが、クリスとアニーからすればとても長い時間だと感じてしまう。
「お待たせいたしました。クリスティーヌ姫の部屋まで護衛させていただきます」
そんなことを言いながら衛兵長が恭しく頭を下げる。
王宮の中だから護衛なんていらないといいたいところだが、何かあってはいけないのでそれに素直に従うことにする。
クリスが衛兵長の申し出を了承する内容の返事をすると、彼はもう一度頭を下げてから立ち上がる。
「それではご案内します。アニー殿もついてきてください」
そういうと、衛兵長は同行している兵士に合図を送り、彼らが先導して歩き始める。
クリスとアニーはそれに合わせて部屋の外に出た。
『クリス!』
メイの声がかかったのはその瞬間である。
彼女が声をかけた意味が分からなかったものの、クリスはその声に反応するような形で立ち止まる。
次の瞬間、クリスの目に映ったのはメイの姿でも衛兵長たちの姿でもなく天井から勢いよく落下したと思われる針が無数につけられている天井とそれに押しつぶされる直前のところで呆然としているアニーの姿だ。
衛兵長たちもその天井の向こうにあったのでどうやら無事なようだ。
「……なに、これ……」
横に立つアニーの口からそんな声が漏れる。
当然だろう。外に出られたと思いきやこんなものが待ち構えていたのだから。
「どういうつもり? あなたたちは何か知っているの?」
あのままのペースで歩いていれば、間違いなくあの天井はクリスに直撃していた。
いくら中身が魔王でも体はか弱い王女様だ。こんなものが直撃した暁には目も当てられないような惨状になるだろう。
そうなると、都合よく助かっている三人にある程度疑いの視線が向けられるのは当然だろう。
「……それで? どうなの?」
うつむいたまま黙ってしまった衛兵たちに代わり、衛兵長が一歩前に歩み出た。
「……わたくしたちは何も知りません。ただ単に命令通りのタイミングでクリスティーヌ姫の案内をさせていただいているだけです」
「本当に?」
「はい。本当です」
衛兵長は真っすぐとクリスの目を見ながら答える。
とりあえずは真実とみておいた方がいいのかもしれない。そもそも、彼らが自分を殺す気なのなら、背後に回って刺してしまう方が単純明快で楽な手だ。それをしないどころか、まともな武器を所持していないあたり、彼らは本当に利用されているだけなのかもしれない。
「……そのタイミングとやらを指示したのは誰?」
クリスがきくと、衛兵長は少し視線をそらしながら答えた。
「知りません。あなた様をこの部屋から連れ出すという命令は国王様の側近の方から出されたものなのですが、詳しい行程については後から手紙で指示されただけでしたので……私は知りません」
様子を見る限り、知ってはいるが話せないといったところだろうか?
クリスはそう考えながら彼らの方に向き直る。
「わかりました。この場では信じておきましょう。私を出口までしっかりと護送してください」
この場にとどまり続けるのは危険だと判断したクリスはおびえているアニーの手を取って、衛兵長たちが立っている方へと歩き出した。




