一寸の光
魔王城の奥の奥。
昼も夜もわからない監禁部屋に閉じ込められてからどれほどの時間が経ったかはわからない。体感だけでいえばひと月はそこにいるのではないかとすら思えてくる。
「……私たち、いつまでここにいるんでしょうか……」
ポツリとアニーがつぶやく。
ここに来てから実際にどれだけ経ったのだろうか? 一時間か、半日か、一日か、一週間か、半月か、一か月か、半年か、一年か、はたまたそれ以上か……
その問いにクリスもメイも答えない。
メイに尋ねれば、どれだけの期間ここにいるのかわかるが、それを知ったところで何かができるというわけではない。
今から考えるべきはその先にある未来だ。
しかし、ここにいる限りはそれは始まらない。
そんな風に考えていたとき、部屋の外からカツカツという靴音が聞こえてきた。
「クリスティーヌ姫。よろしいでしょうか?」
部屋の外から聞こえてきたのは聞き覚えのある衛兵長のモノだ。
「はい。どうぞ」
クリスが返事をすると、扉を開けて衛兵長と付き添いの兵士二人が姿を現す
彼らはクリスの前までやってくると、恭しく頭を下げた。
「クリスティーヌ姫。長い間の苦痛痛み入ります。国王様より、部屋の外に出ても良いという許可が降りましたのでご報告に上がりました
「ありがとう。それで? 私はいつごろから出られるのでしょうか?」
「……三日後の予定になっております。それまでの辛抱です」
視界の端に映るアニーの顔がパッと明るくなる。明確な期限ができたことで希望を持てたのだろう。
しかし、クリスは簡単に安心できなかった。
時期がどうのというよりも、ここから出た後の振る舞いを一つ間違えればその先は闇だ。慎重に動きながらも確実に真実に近づいていかなければならない。
そのまま頭を下げて立ち去っていく衛兵長を見送りながらクリスは思考を巡らせる。
いかにして、この先調査を進めていくか……突如として見えた光からそれをどうやってたどっていくかという方向へと考えを進める。
「……メイ」
『はいはい』
その考えの間にメイに声をかけると、彼女はその意図を察したようで壁をすり抜けて去っていく。
メイに王宮内の現状を改めて調査してもらおうと考えての行動だ。
「やっと出られるんですね」
深く考え込んでいるクリスにアニーが声をかける。
「えぇそうね。かといっても、油断はできなさそうだけれど……」
「それは……そうですね」
クリスの話を聞いたせいか、アニーも簡単に喜んではいけない事態なのではないかという考えはある様だ。
もちろん、この状況からいつか解放されることはわかっていたのだが、いざそうなってみると何か裏があるのではないかと思えてならない。
本当に何もなければいいのだが、そうではない可能性を考慮して、わざわざメイを王宮の中を調査させるために向かわせたのだ。とにかく、この三日間で注意するべきことをちゃんと見極めておく必要がある。
たった一寸の光ほどの希望にたどり着くためにクリスは深く深く思考を巡らせていった。




