夜に歩く三人
勇者の家を出た後、三人はどこへ行くということもなく城下をさまようように歩いていた。
思ったよりも早く勇者の姉から話がきけたので時間を持て余しているということもあったが、何よりもゆっくりと考える時間がほしかった。
だからといって、城下に知っている場所があるわけでもないし、こんな時間なので開いている商店などいつ部の商売に限られている。
それに昼間だったとしても、人払いの結界を使ったまま来店すれば間違いなく迷惑だ。
三人は話し合った結果、王都近郊にある広場へ行こうという結論には達した。
しかし、朝日が昇るぐらいまで町を見て考えたいというクリスの提案によって、現在のような状況になっている。
ある意味では広場という最終目的地はあっても、それまでどうするか考えていないので行くところもなく町を歩いているという状況になるわけである。
相変わらず人払いの魔法は効果を発揮しているようで周りに人の姿はない。
少なくとも王宮に戻るまでは昼も夜もこれが続くのだから、ある程度この状況に慣れなければならない。
そこに思考が至って初めて、先ほどはアンズの人払いの魔法を使い続けることについての負荷を考えていたが、冷静に考えればどうせ使いっぱなしなのだからそのあたりはあまり関係ないということに改めて気付いた。クリスは少し焦りすぎてしまったのだ。あれは完全に失策である。
「はぁ……にしても、何がどうなっているのよ……」
一番の問題は勇者の姉の話が本当だとすれば、王宮側のだれかがクリスを葬ろうとしていたという事実である。
しかも、その正体について勇者の姉は何も知らないと来たものだからどうしようもない。もっとも、そこだけうそをついたという可能性も否定しないが、それはあまり考慮しなくてもいいだろう。
前々から言っていた話と矛盾するわけでもないし、一応筋は通る。
そう考えると、あと残る問題は誰が勇者の姉に魔王の言葉に耳を貸さずに魔王(中身クリス)を殺すようにと命じたかだ。
そこがわからない限りどうしようもないのだが、クリスとしては王宮へ帰るということ自体が億劫になりつつあった。
おそらく、この後王宮に帰れば脱走対策はさらに強化されて、より難易度が上がるだろう。第三階脱走計画などといっていられなくなるかもしれない。
「いっそのこと、このままどこかへ逃げてしまおうかしら?」
いつの間にかそんなつぶやきが自然と出てきてしまっていた。
「……逃げられないわよ。王国の近衛はあんなのでも優秀といえば優秀。三日近くの時間があるとはいえ、逃げるあてもないのでしょう? それに町を出た瞬間に町以外を捜索していた近衛に見つかる可能性もあるわ。その方がまずいと思わない?」
「……えぇそうね。ちょっと、冷静さを欠いていたわ」
クリスは思考を平常に戻そうと深呼吸をする。
そして、立ち止まって夜空に広がる星を眺めた。
「結局、私はこの国に縛られ続けると……おそらく、魔王の監視なんて言うとんだ理由で閉じ込められるということなのでしょうね。いっそのこと、あの空に浮かぶ星にでもなりたいわ」
クリスはそういった後、しばらくの間夜空に浮かぶ星星を眺めていた。




