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勇者の姉の話(中編)

 魔王がクリスティーヌ姫をさらったと大騒ぎになった日から一週間後。

 国のためにと急きょ選ばれた勇者は国境付近の町にたどり着いていた。


 国中からの寄せ集めの集団といっても過言ではないこのパーティは魔王討伐という一定の目標を前にとりあえずのまとまりを見せていた。


「勇者さん。それじゃ先に風呂入っておくぜ」

「どうぞ、ボクは待っているんで」


 風呂へ向かう武道家を見送り、勇者はため息をつく。


 最近、いつもそうだ。


 魔王を倒すためとして剣の練習は欠かさないようにしているし、皆との連携もとれるようにはなってきた。

 しかし、勇者からすればどうしても魔族たちが悪者には見えないのだ。


 最初こそ、姫をさらった犯人だとして積極的に倒そうとしていたのだが、どの魔族もあちらから仕掛けてくるということはめったになく、むしろ敵である勇者が来たから迎撃しているというようにも見える。

 そうだとすれば、本当の敵はどちらなのだろうか? 魔族か? 勇者か?


 そのあたりのことはよくわからない。


「……また下らないことを考えているでしょ。あなた、そんな顔をしているわ」


 そんな時、突如としてそんな声が降ってきた。


「誰?」


 勇者が振り向こうとしたその時、勇者のみが持てる聖剣によく似た剣の切っ先が首元に向けられた。


「反応が遅いわよ。勇者が姉に背後を取られるなんて油断しすぎじゃないの? 私が敵だったら、あなたは今頃天国に旅立っているわよ」

「だろうね。僕としては姉さんがこんなところにいるほうが意外なんだけど。どうかしたの?」


 冷たい声のまま切っ先を向ける姉に対して、勇者はけだるそうな声で返答する。

 その態度が気に入らなかったのか、勇者の姉はそれをさらに首元に寄せた。


「そんな態度で魔王が倒せるの? まさか、魔族も生きているんだから必ずしも悪いわけないなんて幻想を抱いているわけじゃないでしょうね? これから私たちが殺しに行くのは人間じゃないのよ。気負いする必要なんてないわ。報告を聞いた国王様が不審がってわざわざ私をあなたのところへ送り込んだんだもの」

「そう。でも、そうはいっても魔族が姫をさらったのは事実だし、どうするにせよ救出する必要はあるから、敵前逃亡なんてするつもりはないよ」

「……そういうことを言っているんじゃないのよ」


 ただでさえ冷たかった姉はさらに声を低くして、目の前に座る弟にさらに威圧をかける。

 気付けば、剣を持つ手に力が入っていて、勇者の首筋から赤い血が少しずつ流れ始める。


「姉さん?」

「そういうことじゃないのよ。あなたが求められているのはそういうことじゃないの」

「どうしたのさ、姉さん」


 勇者はようやく姉の様子がおかしいことに気付いたが、すでに遅かった。

 剣の切っ先にばかり意識が向かっていたことも相まって、勇者は姉のけりであっさりと壁際まで吹き飛んだ。


「姉さん!」

「あなたが求められているのはそういうことじゃない! 魔族を皆殺しにしてこその勇者でしょ! 国王様からはそういわれているんでしょう? それなのになんで魔族に同情なんかしているのよ! 殺しなさいよ! あいつらは人間じゃないのよ! あなたが後ろめたい思いをすることなんて何もないのよ!」

「やめて! 落ち着いて!」


 国王に何を言われたのかわからないが、勇者の姉は興奮状態で勇者を責め立てる。

 それはまるで何かにとりつかれているようにすら見えた。


「とにかく、これ以上あんたが腑抜けを続けるなら、私が勇者になる。魔族たちも魔族にあっさりとさらわれるような姫も私が全部始末する」


 そういうと、勇者の姉はゆらりと立ち上がり、手に持った剣を目の前にいる勇者にむけて思い切り振り下ろした。

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