夜の城下町
王宮から抜け出したクリスとメイは真っ先に町へと向かい、夜中の町を二人並んで歩いていた。
普段であれば、クリスの上空を飛んでいるメイが何を思って隣を歩いているのかわからないが、別段害があるわけではないから気にしなくてもいいだろう。
夜の町はシンと静まり返っていて、風が木々をなでる音や何かが転がる音がやけに大きく聞こえる。
時々、遠くからけものの遠吠えが聞こえてくるのは森の近くにあるこの町ならではの状況なのかもしれない。
いや、町の中でも遠吠えが聞こえるというのは割りとまずい状況かもしれない。
今はそんなことを気にしてもしょうがないが、少しばかりそんなことが気になった。
クリスはなるべく目立たないように夜の街を歩き続けて、事前にアンズに指定されたポイントへと向かう。
『それにしてもかなり静かね』
「静かって……夜なんだから当然でしょ?」
『いや、そうなんだけど、夜だけの商売とかもあるはずなのにそれすらないのは不自然というかなんというか……』
メイはどこか不安げな様子で周りを見回す。
確かに指摘されてから改めて周りを見てみると、不自然なほどあたりは静まり返っているように感じる。
今日は何かの日だったかと思い出そうとするが、それに関しては全く思い当たるモノがない。
まぁとにかく、これは好都合だといわんばかりにクリスは先を急ぐ。
『……本当に何があるんでしょうね』
そのすぐ横に並んでいるメイのつぶやきは夜風に乗ってどこかへと消えていった。
*
王宮を出てから数十分後。
アンズに指定された広場についたクリスは彼女の姿を探して、周りを何度か見回してみる。
なかなか居候先を抜け出せないでいるのか、アンズはなかなか姿を現さない。
空に浮かぶ月は先ほど雲の中に隠れてしまって少しばかり周りが暗くなる。
「……お待たせしました」
そんな中、暗がりからアンズが姿を現す。
少し遅刻気味だが、十分程度のことだから許容の範囲内だろう。
アンズは周りを警戒しながらこちらに歩いてくるとクリスの目の前で立ち止まり軽く頭を下げた。
「どうも。こんばんわ」
「えぇ。こんばんわ。本当にこんな時間に抜け出してくるなんて思ってもみなかったわ。というより、想像以上に行動が早いわね」
「まぁそうでしょうね」
彼女が指摘する通り、この計画の話をしてからすぐにクリスは計画を実行した。
アンズからすれば、もっと準備時間をかけてから動き出すと考えていたのだろう。クリスとしてもそうだ。今がチャンスだという思いさえなければ、もう少しぐらいは準備時間をかけていたはずだ。
「まぁ動き出しましょうか」
「えぇ。それで? どうするの?」
「まぁとりあえずはついて着て頂戴。いろいろと準備がしてあるから……あぁそれと、もう一つ。わかっているとは思うけれど、静かにしてほしいところね。極力声を出さないでついてきて」
アンズはそういうと、くるりと踵を返して歩き始める。
クリスとメイはそれに置いて行かれないようにと、やや急ぎ足で彼女の背中を追って夜の町へと消えていった。




