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脱走の糸口

 夜。

 草木も眠るような静寂があたりを包む中、クリスは小ぶりな荷物を抱えてなるべく音をたてないようにして移動していた。

 前回、脱走してからすぐにことが発覚して逃げ回ることになったのだが、今回は脱走してから三日間は捕まらないことが一応は保証されている


 だが、もしもということがあるので移動には細心の注意を払い、極力発見されないような行動をすることが必要だ。


 あの衛兵長はおそらく、権力には素直に従うタイプだ。

 それだけにクリスよりも上……例えば、国王などから町を探すようにと圧力をかけられれば途端に方針変更をするかもしれない。

 そうなったときに備えて、行動には慎重に慎重を……それこそ石橋をたたいて渡らないぐらいには慎重に行動しようと心がける。いや、最終的にはわたらないと意味がないか……


 ともかく、それぐらい慎重に行動しなければことをなすことはできない。


「よしっ衛兵。使用人ともなし」

『こちらも異常なし』


 二人で連携しながら王宮の中を進み建物の外に出る。

 あとはうまいこと城壁を超えられれば町はすぐ目の前だ。


 魔王城に来る前のクリスがよく脱走につかっていたという抜け穴が城壁にあいているらしく、それが発覚してから警備がされているとのことだが、もしかしたらという可能性にかけてそちらへと向かっている。


『外も今のところ衛兵の接近なし』

「了解。ありがとう」


 どうやら、衛兵長は何も言わずとも抜け穴付近の警備を甘くしてくれていたようだ。いや、もともとあのあたりについてはほとんど警備されていないかもしれない。

 一瞬、すでに穴がふさがれた可能性に思い当たったが、あの場所はそうそう見つけられない上、そこから入っても王宮から遠く衛兵に見つかるリスクが非常に大きいため、ここからの侵入の可能性は低く補修の緊急性は低いなどと考えられている場所なのだという。


 王宮の警備としてそれはどうなのかと思ってしまうが、おかげでクリスはそこから抜けられるわけであるから、一応感謝はしておこう。


 メイの誘導に従って進んでいくと、確かに茂みに隠れるようにして小さな穴が口を開けていて、そこから外に抜けられるようになっている。


「よしっ早速行こうか」


 クリスは姿勢を低くして、その穴に潜り込む。


 平均よりも細身のクリスの体型でぎりぎり通れるか通れないかぐらいのその穴は屈強な体を持った兵士などでは絶対に通れないだろう。

 そういう意味で考えてみれば、確かに特別修理の必要はないのかもしれない。


「それにしてもちょっと狭いわね……」

『なにそれ? 私が太っているって言いたいの?』

「いや、そういうわけではないけれど」


 どちらかといえば、太っているというよりも成長しているのだろう。

 正確な歳は聞いていないが、体の発達具合を見る限り、クリスの体はまだ成長途中だ。


 大人になる一歩手前。それが今のクリスの体だ。


 だが、わざわざそれを口に出すことはしない。


『そろそろ外に出るわよ』


 体がほとんど壁に埋まっているメイから声がかかる。


「わかった」


 クリスは短くそれだけ答えて、壁の向こうの世界へと手を伸ばした。

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