作戦会議
「それで? どうする気なの?」
図書館から場所を移し、中庭の少し目立ちにくい場所で防音結界を張ったアンズが口を開く。
あのまま図書館にいてもよかったのだが、アンズが暗くて居心地が悪いのでいやだといったので場所をここに移したのだ。
さすがにこれほどの事態にアニーを巻き込むわけにはいかないので彼女には掃除という名目でクリスの部屋に待機してもらい、残ったメンバーで作戦会議を進めることになった。
周りから見れば、本来王宮にいないはずのアンズがいる光景というのは異常とまではいかなくても少しおかしな光景のはずなのだが、王女と仲良さげに話していれば、あまり深くは追及しないだろう。
現に周りの人たちは気にしないかかかわりたくないといわんばかりにその場から離れていく。国王がどこからか連れてきた養子よりも扱いはひどいながらもクリスは王女なのである。
そして、普通ならばこの王宮内の人たちは王族に必要以上に干渉しようとはしない。そう。必要以上にはだ……
しかし、そんな中においてクリスたちに声をかける人物がいた。
「クリスティーヌ様。王宮の外の者の姿が見えるのですが、これについて説明を願えますか?」
その人物こそ依然クリスが脱走した際にクリスを確保した衛兵たちの隊長だ。
風の噂によれば、先の作戦で昇格したとのことで、現在ではそれなりの地位についているのだろう。
そんな彼が城内にいる不審者について指摘するのは当然といえば当然なのかもしれない。
まさか、元魔王陣営の人間ですなんて言えないから、どう説明したものかとクリスは考え始める。
そんなクリスの思考を遮るかのようにアンズが口を開いた。
「……クリスティーヌ様が町を訪れた際に知り合ったのです。城下の様子を知りたいが、しょっちゅう城を抜けるのもまずいのでどうしても話がしたいなどといって呼ばれまして……迷惑でしたら帰ります」
「そうでしたか。まぁそれでクリスティーヌ様が城の外に出ないというのならまぁいいでしょう。では、私はこれで……くれぐれも我々の手を煩わせないでくださいね」
アンズの説明にあっさりと納得した彼はきれいに回れ右をして立ち去っていく。というより、あんな説明で納得される当たり、魔王城に来る前のクリスは相当回数脱走を繰り返していたのだろうか?
そんなことを考えながらメイに視線を移すが、彼女は気まずそうに視線を外すだけで答えてはくれない。いや、その態度そのものがある意味の答えなのだろう。
クリスは小さく息を吐いて頭をかく。もっとも、これのおかげでしばらくはアンズが城内に滞在できるのだから結果的には良しとした方がいいかもしれない。
「それで? 結局どうするわけ?」
改めてこの場を仕切りなおすためにクリスが口を開く。
しばらくの間、考え込むようなしぐさを見せたアンズは突然、にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「……そうね。私も手伝うから、もう一度脱走してみたらどう? 今度は前よりももっと大規模に、そしてちゃんとした目的地をもってね」
彼女の言葉を理解するまでの数分間、クリスはしばらく動きを固めたのちに首をコテンとかしげる。
「あの? 意味が分からないのだけど?」
クリスがそう尋ねても彼女はにやにやと笑っているだけで具体的な答えを提示しない。
「作戦については後で手紙を送るからそれを見て頂戴」
ただ、それだけを言い残してアンズはその場から姿を消してしまった。




