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助っ人登場

「……私は便利屋じゃないんだけど」


 アニーに呼ばれてここにやってきた少女、アンズは不機嫌そうな様子を隠す気配がない。

 指で机をトントンと叩きながら目の前に座り、形式上申し訳なさそうな表情を浮かべているクリスをにらむ。

 クリスの口から自身が呼ばれた理由を聞いた瞬間からずっとこの調子だ。


「えぇ。わかってます。ですが、あなたの力が必要だと思ったのでお呼びしたのです。メイドに行かせた無礼ならお詫びします」


 そんなアンズに対して、クリスはまるで姫様のような振る舞いと口調で対応する。

 それが気に食わなかったのか、アンズが体を乗り出して机をドンと叩く。


「そーもーそーもー! 一応、魔王勢力だった私を王宮に呼ぶってさ、バカなの? それともバカなの? はたまたバカなの? ねぇバカでしょ! バカじゃなかったらそんなことしないよねぇ!」


 いろいろと事情があるとはいえ、仮にも一国の王女を目の前にして暴言を吐き続けられる精神はある意味尊敬に値する。

 もっとも、専属メイドのアニーやクリス本人を含めて誰と止めないというある意味滑稽な風景なのだろうが……むしろ、クリスからすれば、わずかな間に感情が乏しかったアンズがしっかりと感情を得たのがうれしかった。方向性は少し間違ってる気もするが……


 そんなアンズをほほえましく見守っていると、何を勘違いしたのかメイが“うわぁ”と言いながら少し引き下がっていた。


「あーもう。姫様、あんたも私なんかと知り合いだったらいろいろまずいだろ」


 アンズはいかにもわざとらしく、深い関係はないということを説明する。


 アニーにはアンズがどういう立場の人間なのか説明したうえで連れてきてもらっているのでこの程度の発言は大して問題はない。

 そして、アンズ自身も保険のためか、さりげなく魔法を使って周りに音が伝わらないようにしているので彼女なりにしっかりと考えているのだろう。まさか、こんな暴言を吐くためだけに防音魔法をかけたのだとしたら少し泣けてくる。


「まぁいいや。一応、さっき説明を聞いた通りのことをすればいいのか?」

「えぇ。頼めるかしら?」

「ちっわかったよ。でも、期待しないでくれよ。そもそも、そんな都合のいい魔法は存在していないんだから」


 彼女はそういいながらクリスが用意した本を開く。


 目をつむりながら本のテキストに一つ一つ丁寧に触れていく。


「……なるほどね。えぇ。そうなっているの……ほぅ。面白いわね……クスクス、ふーん。そうなのね」


 ぶつぶつと、まるで誰かの会話に相づちを打つようにぼそぼそと独り言を言い続ける。


「……クリス」

「大丈夫よアニー。彼女は変人だけど、役に立つ助っ人よ。私の推測ではこの図書館にある魔法をある程度再構築できる程度にはね」

「それは大げさでは? この図書館の魔法は普通じゃありませんよ」

「えぇ。それでも彼女にはできるわ。魔族側にいたという理由だけで差別されるのがかわいそうなぐらいにね。おそらく、先の大戦なんてなくて人間と魔族が和解していたのならあの子は輝かしい未来を得られたのでしょうけれど」


 口ではそういうものの、彼女の体質上人間社会にしっかり溶け込んでいくのは今後も難しいだろう。

 しかし、それは口に出さない。


 いつしか、自身に協力してくれた彼女が幸せを得られるようにと願いたいからだ。


 クリスたちはそのまましばらく、何かとの対話を続けるアンズを見守っていた。

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