いくつかの疑問点
王立図書館にこもり始めてから実に半日。
クリスはかなりのペースで本を読み進めていた。
必要以上に事細かに書かれているその内容からクリスは少しずつ疑問点を洗い出していく。
まずは魔王討伐の理由に関する記述。
これは当然ながら変化しなかった。ある意味では安心できた点だ。
次に勇者の行動。
最初こそ、戦いを避け、優しい性格のように見えた勇者であるが、ある日を境に性格が一変。積極的に戦いを挑み、制圧した魔族側の砦を荒らしまわり金品を持ち去ったりしている。
もしかしたら、この辺りで彼の性格に変化をもたらすレベルの何かがあったのだろうか?
しかし、いくら読み進めたところでそれに言及するような記載は一切出てこない。
ただただ淡々と事実とそれに向けての勇者一行の行動だけが書かれている。
最後に一番疑問に思えたのは、勇者の性格が一変する直前から魔王討伐直後まで勇者の行動に関して少しずつながらも空白の期間が生じているのだ。
移動時間的に少しかかりすぎているだとか、まったく移動したという記述がないにもかかわらず町へとついていたりと様々だ。
そのあたりのことを少しずつ紐解いていくと、よく見れば勇者だけがどこかに行っていて参加していない砦攻めがあったり、突然遭遇した魔族との闘いが勇者一人の時があったりするなど、勇者パーティという単位を絶対として動いていたはずにしては不自然な行動が目立つ。
帰りは少しでも勇者パーティから離れて行動するときははっきりと行先を告げていたし、そのことを記録係が逐一記録していた。
単なる記述漏れという可能性もあるが、それにしては多すぎる件数だ。
「メイ。これって……」
『不自然ですね。ただ、仮に何かを隠そうというのなら記録のねつ造ぐらいしてもおかしくはないんじゃない? いくらなんでも空白にするなんて……』
メイの言葉にクリスはゆっくりと首を振る。
おそらく、これはそういうことではないのだ。
「たぶん。この記録を改ざんすると何か重罪に問われるとかあるんじゃないの?」
『えっ? あぁ確かに国から正式に依頼された文章の改ざんは重罪だけど……あっ』
メイもどうやら気づいたらしい。
今回の出来事における重要な視点。
記録の改ざんはしてはならない。しかし、真実は書きたくない。
ならばどうするか? 答えは簡単で書き漏れたと主張しながら書かなければいい。
仮に国王側が改ざんを指示したとなれば大問題となる。しかし、こっそりひっそりと都合の悪いことを描かなくてもいいと伝えれば、そうしたという証拠は一切なく、記録者の証言があったとしても罪に問うのは難しいだろう。
多少の疑念を残しても決定的な証拠は残さない。ある意味うまいやり方だ。
「なるほど……でも、そうなると……」
『次に探らないといけないのは空白期間に置ける勇者の行動。単に勝手な行動をしていて、書けなかったのか、はたまた意図的に書かせないで暗躍していたのか……』
「いずれにしても厄介ね。どうしたものかしら……」
クリスは何枚からぺらぺらとページをめくりながら考える。
「はぁ……なにか妙案が……とそうだ」
そして、彼女は何かに思い当たったかのように思い切り立ち上がる。
「こういう時こそ助っ人の出番だと思わない? ここは一般人立ち入り可能の場所なんですもの」
クリスはにやりとした笑みを浮かべながら、顔の前で手を合わせている。
クリスが呼ぶ助っ人がだれかなんとなく察したメイは彼女と同様ににやりと笑った。
「アニー。頼みたい事があるのだけど」
クリスは近くに控えているであろうアニーに声をかけ、助っ人の居場所を伝える。
快く仕事を引き受けてくれたアニーはパタパタと足を音たてながら図書館の出口の方へと走っていった。
「さて、それじゃあいつが来るよりも前に準備をしちゃいましょう」
アニーの背中を見送りながら、クリスはメイに向けてそういった。




