王立図書館へ
王宮の中でも町に最も近い場所に立つ建物。王立図書館。
一応、表向きは一般人も立ち入ることができるその場所の入り口である扉の前にクリスとメイは立っていた。
クリスの身長の倍以上はあろうかという巨大な扉はそこにあるだけでかなりの威圧感がある。
「ここが王立図書館……」
『えぇ。とてもそうには見えないでしょう?』
「まぁ確かに図書館っていう雰囲気じゃないよね。どちらか言えば、魔王城?」
『元魔王様がそういうなら違いないかもしれないわね』
そういって、メイはくすくすと笑い声をあげる。
クリスはその声を背にゆっくりと王立図書館の扉を押し開けた。
扉を開けると、その向こうにはクリスの身長の何倍はあろうかという本棚が並ぶ広大な空間が広がっていた。
正面と左右を見回してみるが、自分の背後以外どこにも壁は見えず、まるで本棚が暗闇の中に消えていっているように見える。
「なにこれ……」
『この図書館は高度な空間魔法で管理されているらしいわ。まぁ今となってはそれほどの魔法を使える魔法使いがいなくて、館長が維持に徹しているっていう話だけどね』
あまりの広さに驚くクリスの耳元でメイがこの状況について解説する。
高度な空間魔法だとタネを明かされればわからないこともない。
冷静に感性を研ぎ澄ませてみると、暴力的ともいえるほどの尋常ではない魔力を感じる。それでいて、それは整然と組まれており、この広大な図書館を構成しているようだ。
そう考えてみると、確かにこの図書館にはかなり高度な魔法が組まれているようだ。
今の体になる前。魔王として長らく生きてきたが、その間にこれほどの魔法を構築できるであろう魔法使いは一人しか思い当たらない。
アンズなら、余裕でこれほどの魔法を構築できるだろう。
そもそも、この状況下においてふつうは組まれている術式から、発動時に消費する魔力が半端ではないということばかり考えてしまうだろうが、アンズの場合、巨大な術式を発動させるための魔力を集めるのではなく、いかに魔力を節約して発動するかという点についてたけている。
おそらく、彼女ならこの術式に一つ二つ魔法を重ねて、もっと効率よく同様の効果が得られるように改造するはずだ。
先ほどクリスが暴力的だと称したのにはそのあたりもかかわっていて、平たく言えばとにかく空間を広げるために大量の術式を詰め込んで無理やり成立させているわけである。
効率とかもう少しそのあたりをちゃんと考えていれば、維持以外できないなんて言う状態にはならなかっただろうし、維持するための魔力も少なくて済んだはずだ。
だからと言って、この場でそんなことを考えていても仕方がない。
「それじゃ早速目的の本を探しに行きましょうか」
『いや、行きましょうかってどうやって探す気? こんな場所から』
「どうするって……どうしましょうか?」
考えていなかったのかと言わんばかりにメイがため息をつく。
『まったく……とりあえず、どこかに司書がいるでしょうから探して声をかけましょう。別に魔王討伐の記録を探したいっていえば、不自然さなんてないし』
「まぁ確かにそうかもしれないわね。それじゃ司書を探しながら歩いていきますか」
クリスはそういいながら、図書館の奥のほうへと歩み出た。




