不思議なお茶会
クリスの一言により急きょ開かれたお茶会。
参加者はクリス、メイ、アニーの三者であるが、アニーの目からすれば参加者は二名、紅茶と菓子は三人分という少々不思議なお茶会である。
もっとも、アニーは立場上はメイドのため、疑問を口にすることがはばかられ、おとなしくこのお茶会に参加している。
あの日、食堂で仲良くなったクリスと再び会えたのはうれしいのだが、二人の間に生まれてしまった立場の差をどうするべきかという点で迷ってしまっているのだ。
おそらく、クリスは気にしないというだろうが、どうしてもアニーは気になってしまう。
だからこそ、彼女の奇行の意図についても聞くことができない。いや、もしかしたら誰かの命日だったりだとか、そういうことという可能性もあるから、一概に奇行とは言い切れないだろう。
ともかく、失礼なことは言えないのでアニーはおとなしく紅茶を口に含む。
「さて、なんだか久しぶりな気もするわねアニー。出会ったのは昨日だけれど」
「えっ? そうなの?」
「えぇまぁ……昨晩いろいろとあったのよ。面倒なことにね」
面倒なことがあったということ以上にクリスは何も語らない。
おそらく、聞いたところでまともな答えは返ってこないだろう。
この役割……つまり、クリスの専属メイドになる前にメイド長から直々に伝えられた注意事項はたった一つだった。“クリスティーヌ姫はかなり自由勝手だから気を付けろ”というモノだ。
そこは自分勝手のまちがいだったりしないのだろうかと心配していたのだが、実際は確かに自分勝手ということはなかった。
しかし、しかしだ……いきなりメイドを座らせてお茶会を始めるあたり、かなりの自由人であるような気がする。
噂では王宮の庭に畑を作っているだとか、時々王宮を抜け出して町に出ているだとか、王宮から本気で脱走して冬の森で近衛兵から逃げ回っただとかいうモノがあったが、そのうちいくつかが本当なのではないかと思えるほどだ。少なくとも、使用人に混じって仕事していた時点でいくつか本当だといわれても否定しきれない。
とにかく、なにを言いたいのかと言えば、目の前にいる王女は一般的な王族のイメージとはるかにかけ離れているということだ。
王族というのは単なるお茶会ですら作法を気にするし、それは使用人や町の人たちも少なからず気にする。
それには当然ながら、王族には王族のルール、使用人には使用人のルール、町人には町人のルールがある。
しかし、このお茶会はどうだろうか?
中央に置かれているのはアニーが適当に用意したお茶菓子、紅茶は人数プラス一、飲み方もどこぞの作法にのっとるわけでもなく、好きなように飲んでいるように見える。
ここで作法がどうだとか持ち出す使用人は空気を読めていないとしか言いようがない。
メイド長が言っていた自由勝手というのはそういう意味も含まれているのだろう。もしかしたら、それ以上の意味も含まれているのかもしれないが……
アニーは最初こそ、そんな風に堅苦しいことを考えていたのだが、後半になれば作法のことなど忘れてクリスとの話に夢中になっていた。
結局、最後まで紅茶を三人分用意させた理由は聞けなかったが、アニーはクリスの満足げな表情を背中に空になったティーカップを持って彼女の部屋を離れた。




