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クリスの意思

『……そんなことが』


 話を聞き終えたメイは小さな声でつぶやいた。その表情には信じられないという思いがにじみ出ていた。


『その話って、本当なの?』


 それに対して、クリスは小さくうなづいてから答えた。


「あくまであの人が言っていただけだから確証は持てないけれど、彼女は確かに自信を持って行っていたように見えた。話の内容はとても信じられるものではないけれど……」

『でもですよ。処刑はないにしても折檻ぐらいはしてもおかしくないんじゃないの? それに王宮から逃げ出した時も衛兵まで出して追ってきたし……』

「……そんなの世間体のためっていえば、すべて済むんじゃないの?」


 クリスの言葉にメイは口を閉ざしてしまった。

 しかし、事あるごとに国王としての威厳がこうだから、彼はこうしているのだとか、外見を見繕うためになどと言っていたのは他でもないメイ自身だ。

 ただ、メイとしては心のどこかで父親である国王のことを信じたいのかもしれない。確かに生まれのせいで疎ましく思われているのかもしれないが、それでもどこかに親子としての愛を期待していたのかもしれない。


 今回の出来事はそんなメイにとって、その胸に秘めた希望を見る影もなく打ち砕くような衝撃を持っているはずだ。

 そのことは分かっていたが、クリスはあえてそう言い切った。国王は実の娘であろうとも、疎ましいものは疎ましかったのだろうと……


 だからこそ、勇者はこちらの話を一切聞かずに一方的に攻撃を仕掛けてきたのだろう。


 彼にはそうするようにという命令が下されいただろうから……もしくは魔王が何を言っても耳を貸さないようにと言い続けて洗脳していたのかもしれない。

 いずれにしても、勇者の姉が語った出来事が真実であれは、それはあまりにも非情で残酷な結末だ。


「でもさ、メイ。これが真実だって限らないんだから、調べてみる価値はあると思わない?」


 だが、あえてクリスはメイを慰めずにそんな声をかける。

 おそらく、その方が自分らしいから。心配して寄り添ってもいいのだが、それだけでは前には進まない。


 人間と魔族がいずれ和解できるなんてバカ正直に信じていたぐらいなのだから、調べもせずにこのまま泣き寝入りなど気に入らない。

 そんな思いがクリスの中にはあった。


 そんな心中を察したのかわからないが、メイは何度か首をコクコクと動かして返事をする。


「さて、そういうわけだからまずは気分転換と行きましょうか」

『あまりそういう気分じゃないけど?』

「まぁ私もそうだけどさ……やっぱり、このまま暗いばかりじゃわかるものもわからないでしょ? アニーを呼んでお茶会でもしましょうか」


 実際、そんな気分ではないのだが、そうでもしないと落ち込んだままで大切なことを見落としてしまうかも知らないからだ。


「アニー。入ってて来て頂戴」

「はい。ただいま」


 少し声を張り上げてみれば、部屋の外からアニーの返事が帰ってくる。

 やはり、彼女は部屋の外で待機していたようだ。


「アニー。お茶を三人分用意して頂戴」

「三人分ですか?」


 彼女からすれば、この部屋には自信とクリスの二人しかいないのでかなり奇妙な命令だ。

 少しの間、思考を停止させていたアニーは考えても仕方ないという結論を導きだして部屋をでる。


 クリスはその背中を見送った後、窓際のイスに腰をおろした。

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