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姉の罠

「はぁはぁもうおかしかった!」


 ひとしきり笑い終えてどこか満足げな勇者の姉はゆっくりと顔を上げてクリスの表情を見る。


「あなた、この程度の罠に引っかかるの?」


 勇者の姉はゆらりと立ち上がり、クリスに迫る。


「本当にバカね。そもそも、私のような一般人が人の魔力を観測できるような能力を持っていたとでも? 仮に持っていれば、貧民街で盗みなんてやらないわよ。それにあなたは“自分が魔王だとばれていたらすでに処刑されている”なんていうニュアンスのことを言っていたけれどさ……あの外ずらばかり気にする国王が“中身はともかく、見た目は身内”なあなたを処刑するとでも? それにその行動は魔王を倒しきれませんでしたって認めるようなモノでしょう? そんなことあの国王がするとでも思うの?」

「へっあっ……」


 言われてみればそうだ。確かにあの国王が“見た目は”王女である人物を殺すはずがない。

 しかし、そうなってくるともう一つの疑問が生まれてくる。


「だったら、なぜ私と魔王が同一人物だと? まさか、先ほどので鎌をかけたつもりで?」


 先ほどの態度で半ばアウトな気もするが、ここで素直に“はい。実は私が魔王なのです”なんて認めるわけにはいかない。というか認めてはいけない。

 そんなことをすれば、もはや敗北宣言であるし、なにをされるかわからない。


「くすっなんでってそんな簡単な可能性にも気づけませんですか? だったら、クリスティーヌ姫と魔王の魂が入れ替わった瞬間に何が起きたのか考えてみたらどう?」

「入れ替わったも何も私はクリスティーヌよ」


 そんな風に反論しつつもクリスの頭の中では入れ替わった瞬間の出来事が脳内再生されていた。

 階段から落ちるクリス、宙に舞う菓子、そして……そして、恐らくあの時から怪しい光を放っていたであろう水晶玉……


「……何が思い当たるでしょう? たとえば、水晶玉……たとえば、あれを仕込んだのがこちらサイド。つまり、勇者側の人間だったとしたら? そうなれば、私が何でこのことを知っているか手に取るようにわかるはずよね? そう。入れ替わりを仕込んだのは王国サイド……あなたたちはあくまで自己だと思っているようだけれどね。それが真相。残念だったわね」

「いやいやいや。いくらなんでも……まさか、王国側が私を消そうとしているとでも?」


 クリスの背中を一筋の汗が流れる。

 仮に彼女が語ったようなことが本当だとすれば、自分はひたすらに国王の掌の上でもてあそばれていたということなのだろう。

 しかし、それはどうあっても認めたくない事実だ。

 だからこそ、クリスは必死に平静を装いながら話を進める。


「くすっ。あくまでクリスティーヌ姫だって言い張るのね。まぁいいわ。あなたの質問の答えはイエス。国王としてはクリスティーヌ姫を消したかったし、魔王も倒したい。だったら、両人の魂を入れ替えればいい。クリスティーヌ姫は戦い慣れていないから、魔王の体は使いこなせずに魔王はあっさりと倒れ、クリスティーヌの魂と魔王という存在を同時に消し去ることができる。そして、クリスティーヌという器に縛られた魔王は何もできず、王国にはちゃんと平和が訪れる。どう? 完璧なシナリオでしょう?」


 彼女は……勇者の姉は妖艶な笑みを浮かべながらクリスの唇に人差し指を付ける。


「まぁ時期も時期だし、真相が気になるのなら国王陛下にでも聞いてみたらどう?」


 完全に敗北したような気分だ。

 先ほどの出来事があるから、彼女の言葉がどこまで真相に近しいのかわからないが、ここで国王に聞きに行けば、自身が魔王だと自他ともに認めることにある。

 真相は知りたいが、それはどうあっても避けたい。


 それを悟らせないためか、はたまた動揺を隠したかったのか、クリスは話題を転換しようと少し違う角度から彼女に問いかける。


「……ところであなたは“私と”対峙したといっていました。それにまるで当事者のような語り口調でしたが、そこのところはどうなんでしょうか?」


 なぜ、このタイミングでこんな質問をぶつけたのかわからないが、その質問をぶつけられた勇者の姉は一瞬、驚いたような表情を見せた後、すぐに元の表情に戻った。


「……あぁそのことですか。あれは単なる言葉のあやです」


 彼女は顔に笑顔を張り付けたままそう言い切った。

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