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倉庫の出口へ

『待たせたわね』


 例の木箱を開けてから約三十分後。

 いつも通りの笑みを浮かべたメイが姿を現した。


「別に待ったなんて思ってないよ。ここは面白いものがたくさんある」

『そうね。この倉庫ほど楽しいところはないわ。様々な時に王宮に持ち込まれたモノがいつの間にか忘れられて、ここに積まれていく。かつては財宝を隠すための倉庫だったらしいけれど、今ではこんな状態になってしまったわ』


 財宝がなくなったというわけではないだろう。

 どちらかと言えば、ここに置いてあった財宝は城の中を飾るために持ち出され、王宮のいたるところにおいてあるということなのだろう。


 そこに考えが行きついてクリスは小さくため息を漏らす。


 そこまでして、自らの権力を誇示することに大した意味があるのだろうか?

 もちろん、魔王だってある程度権力を誇示する必要があるので多少のことはするが、この王宮でやっているように調度品で室内を徹底的に飾り付けるような真似はしない。


 魔王城内に置いていた調度品は中の上程度であり、必要以上の高級品は求めなかった。それは、金銭面の意味が強く、それを買うだけのお金があれば、その分だけ領民の生活が向上するように使えというのが魔王としての方針であったからだ。


 領民たちはそれでついてきてくれていたし、それは臣下たちにも言えた。

 誰も自らの私腹だけを肥やそうとはしなかったし、領民の為に正しい形で資金を使えば、結果的に自らの下にもっと大きくなって帰ってくるということをよくわかっていた。

 それが、この国では王宮の人間は目の前の利益に気を取られすぎている。これは、勇者が魔族領の各地で徹底的に財宝を奪っていたという行動にも通じるかもしれない。


『クリス?』


 急に黙りこくってしまったので心配したのか、メイが声をかける。


「あぁごめん。なんでもない……そろそろ帰る?」

『そうね。あまり遅くなっても大変だし……そうだ。せっかくだから、畑に行かない? それなら、朝早くから畑にいたように見えるでしょうし』

「そうね。そうしましょうか」


 二人はそんな短い会話を交わした後、出口に向けて歩き出す。


「それにしても、こんなところがあるなんて驚きだわ」

『そらそうよ。私だって最初にこの場所を発見した時は驚いたもの。まぁでも、捨てられていたりしなくてよかった……』


 倉庫の中が暗いせいか、メイの表情をうかがい知ることはできないが、彼女の口調はどこかホッとしたようなものだ。

 クリスはふっと柔らかい笑みを浮かべて笑う。


「まぁそう簡単に捨てられなかったんじゃないの?」

『そうかしら? 単純に見つけられたら面倒だっていう心理で倉庫の奥に奥にって追いやられたんじゃないの?』


 メイはあんなことを言っているが、わざわざ倉庫のあんなところに隠したのだ。

 そう考えてみると、あの国王は自分が思っているほどクリスの母親のことをうっとおしく思っていなかったのかもしれない。むしろ、特別な感情を抱いていたと考える方が自然であろう。


 おそらく、あの木箱の中身は今後も倉庫の奥でひっそりとほこりをかぶり続けるのだろう。


 いつか、王宮の中の空気が変わって日の目を見るその日まで……

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