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隠されたモノ

 メイに何度も何度も呼ばれてせかされながら彼女の下に赴くと、メイは倉庫の一番奥にポツンと置かれている木箱の前で浮いていた。


「これ?」


 クリスが聞くと、メイは静かにうなづいた。

 パッと見た感じでは、それはただの木箱であり、周りにあるモノと比べても大差ない。


『ほら、早く開けてよ! 開けて!』


 しかし、メイがあまりにもせかすのでクリスはその箱に手をかける。

 まったくもって、落ち着いているのかいないのかよくわからない。


「っていうか、これ重い……重すぎる……」

『あぁやっぱり……なんか特殊な仕掛けがありそうな感じだったし……』

「先に言って! お願いだからそういう大切なことは先に言って!」

『大丈夫よ。さっきと一緒で人の生命にかかわる者じゃないわ。ただ単に開けにくくなっているだけよ」


 それはそれで重要な情報だと思うのは自分だけであろうか? しかし、ここで文句を言ったところで木箱が開くわけではないのでこれを開けることに集中する。

 メイが何も言わないあたり、ここ木箱の仕掛け自体は解除しようがないか、いったん箱を開けないと解除できないかのいずれかということだろう。


「にしても、これ重すぎる……」

『そうだ。忘れていたけれど、それ。下に押すとカギが空くわよ』

「えっ?」


 横から言われて箱のふたを押してみると、カチャンという小さな音がなる。

 その後にもう一度箱を持ち上げようとすると、今度は軽く上にあげることができた。


「まったく、箱の開け方ぐらい先にいってよね」


 軽くなったふたを持ち上げると、中のほこりが一気にあたりに舞う。

 クリスは激しく咳き込みながらもその中を覗くと、その中には大量のホコリをかぶった書物と服が入っていた。


「これは?」

『……母様の日記と服。この王宮の隠された歴史……私が妾と王様の間に生まれたという王宮の汚点を隠すためにあの人はここまでしているのよ。母様の遺品をね。懐かしむような気持ちで時々見ていたんだけど、私が魔王城にいる間に隠されたみたいで……それでようやく見つけたの。まさか、こんなところにしまわれているとは思わなかったわ』


 彼女はそう言いながら箱の中を覗き込む。

 クリスは中に入っている服のうちの一つを取り出した。


「これがメイの母様の服……」

『そう。私の大切なモノ。お父様にはわからないでしょうけれど、私にとっては唯一無二の宝物なの』


 彼女はそう言って、にっこりとほほ笑んだ。

 その表情にクリスは少なからず驚かされた。


 これまで何度か、彼女の笑顔は見てきたが、笑っているのに何か悲しげでどこか儚いそんな笑顔を見るのは初めてだった。


「唯一無二の宝物ね」

『うん。ごめんね付き合わせちゃって……』

「別にいいよ。また、あとで呼んで」


 いろいろと気になることはあるが、ここはそっとしておいた方がいいだろう。


 クリスは静かに彼女に語りかけて、その場から離れる。


「それにしても、いろいろあるみたいね。ここは……」


 興味本意から倉庫の中を歩いてみたのだが、ここはかなり面白いものがたくさんありそうだ。

 倉庫に積まれてるのはどれもこれも大量のホコリをかぶっているが、中には傍から見ても豪華な調度品とわかるモノも置いてある。

 豪華な調度品には興味はないが、倉庫の中に何気なく置いてある魔導書を始めとした書籍は魅力的だ。


 クリスはしばらく、倉庫にしまわれている道具を引っ張り出したり、いじったり、本を読みながら、メイから呼ばれるのを待っていた。

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