表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/160

地下の時計

 重く重厚な扉を開けると、そこはこれまで以上に埃っぽい部屋であった。

 これほどまで奥である上にメイ曰く(トラップ)も仕掛けられているとのことだから、王宮の隠し財産だとか金銀財宝だとかを一瞬、妄想したのだが、彼女のせいかっくからしてそんなもののありかを知っているのならとっくの昔に王宮からの逃走資金に充てていただろう。


 そう考えれば、この倉庫にあるものは一見何の価値もないものとみるのが妥当である。


 ためしにほこりをかぶった木箱を開けてみると、中にはたくさんの古ぼけた本が入っていた。


『……えっと、どこだったかしら?』


 メイは倉庫の中をふわふわと漂いながら目的のモノを探している。


 この調子だと、本格的にお宝などあり得ないかもしれない。

 だったら、なぜ彼女はこの倉庫を訪れたのだろうか?


 そんな風に疑問を持っていると、奥の方からメイの声が聞こえる。

 遠く離れているせいか、明瞭には聞こえないが、どうやら自分を呼んでいるようだ。


「今行くよ」


 とにかく、ここに何があろうと一刻も早くここから出たい。

 そんな焦りがクリスを突き動かす。


 その瞬間、ふと視界の端に壁にかけられた魔法時計が目に映る。

 魔法時計と言えば、魔法によって永遠に正確な時を刻み続ける時計のことでその単価はとても高価である。魔王城ですら一つしか置いていなかったような代物だ。

 それがなぜ、このようなところにあるのだろうか? それ自体は壁に立てかけるタイプでサイズもあまり大きくない。デザインも非常にシンプルなので謁見室に置いてある装飾がギラギラしている魔法時計の方が金銭的な意味では価値が高いように見える。芸術性? そんなものは皆無だ。あれはただ単純に自分が金と権力を持っているとひけらかしたいだけのモノだろう。


 そんなどうでもいいことは置いておくとして、この魔法時計。一つ違和感がある。もちろん、こんな場所に置いてあることもそうだし、あまりにも数字を強調しているようなその文字盤にもだ。

 さらに付け足せば、時間がおかしい。もちろん、魔法時計の時間は絶対なのでずれることはない。しかし、そこに示されている時間はあまりにもクリスの認識とは外れているモノだった。


「……なにこれ、全然、時間経ってないじゃない」


 そう。魔法時計が指す時間が体感時間に対して、あまりにもずれているのだ。

 感覚的にそろそろ朝かと思っていたのだが、そんなことは全くなく、むしろ朝まではまだたっぷりと時間がある。


 ここにきて、頭の中で徐々にパーツがはまりだした。


 朝になっていしまうのではないかと心配するクリスに対して、全く気にする様子を見せないメイ。倉庫の仕組みをかたくなに話さないメイ……付け加えれば、ただ単に歩くだけだったというのにいやに考え事が多かったような気もする。


「……なるほど、そういうことか……」


 ここまで来て、元魔王としての知識が答えを出す。


 これはすなわち、人の思考能力に介入し、余分な思考をさせた上で時間感覚を狂わせる(トラップ)だということだろう。

 一見、時間間隔を狂わせるだけならば、余分な思考などさせる必要はないだろうが、外からの侵入者は暗い倉庫でずっと思考に明け暮れていたかのような勘違いをして、見つかることを恐れて逃げていくとかそんな算段なのかもしれない。


 まぁいずれにしても、ここにたどり着いたときにちゃんと時間を確認できるようにここに時計を置いたのだとすれば、納得せざるを得ない現象だ。

 これの答えについては、この倉庫の仕組みについて知っているようなそぶりを見せるクリスに聞くしかないが、これは限りなく正解に近いような気がする。


『ちょっと! 早く来てよ!』


 時計の前であまりにも長くとどまりすぎたようだ。

 目の前の時計を見ると、最初に見たときよりも五分ぐらいたっている。


「今行くから待ってて!」


 時計を見つける前と似たような声をかけながらクリスはメイの方へと向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ