倉庫の一階
倉庫に入ってからどれだけの時間が経っただろか?
こんなふうに真っ暗な空間にずっといると段々と時間感覚が狂ってくる。
もしかしたら、すでに外は朝かもしれない。
そんなことを考えながらクリスは薄暗い倉庫の中を歩いていく。
倉庫の中はクリスの持つランタンの灯りだけがボウッとあたりを怪しげに照らしている。
その雰囲気と真っ暗な倉庫の中で時々置かれている不気味な置物のせいで雰囲気はさながらお化け屋敷だ。
クリスはそんな中で慎重に歩みを進めていく。
メイははやる気持ちが抑えられないのか、何度か急ぐようにとせかすが、それで急いでこんなところで転ぶのはごめんだ。それはそれで私自身は気にしないのだが、周りが気にする。
また、服が汚れるだの、ケガをされたらめんどくさいだの、国王や兄妹、貴族たちに言われるのは目に見えてくる。心配してくれるのなど使用人たちぐらいであろう。
そう考えると思わずため息が漏れてしまう。まったくもって、この立場はめんどくさい。
こう考えると、魔王だった時の方がはるかに自由気ままで楽しかったとすら思えてくる。実際はいつ勇者が来て自分を殺しに来るのかとびくびくしていたわけだが……
メイ曰くあの勇者は心が優しいだとか言っていたが、いまだにそれがどうしても信じられない。それは姫となったうえで接してもだ。
いくら彼に優しくされたとしても、彼の魔王城や魔族領での振る舞いが印象的過ぎて、それで形作られたイメージを崩すことができないのだ。
魔王城で見せた姿は勇者の一面にすぎないのかもしれないが、そう考えると王宮での彼のふるまいもまた、勇者の一面でしかないという考え方も簡単に成立してしまう。
こればかりは人の内面の問題にも近いので何とも言い難いが、彼のそんな二面を見ているクリスとしてはどちらが本当の彼の姿なのかわからない。
ここまで考えて、クリスは立ち止まって首を横に何度か振る。
なぜ、自分は勇者のことなど考えていたのだろうか? なんだかよくわからないが、この倉庫の奥に来た時から考え事が多くなったような気がする。
なんだろうか? 真っ暗な中でほかに考えることもなく歩いていることの影響なのかもしれないが、クリスは冷静にいろいろなことを考えていられる自分が不思議でしょうがない。
別に暗闇が怖いというわけではない。魔族領はこのあたりに比べるとかなり暗かったし、あまり陽が差したことなどなかった。それに魔王城の地下はここ以上に不気味だったために特別ここが怖いなどと感じることはない。
ただ、その一方で不思議とこの部屋に一種の違和感を感じるのだ。それが何かと問われれば答えに詰まってしまうのだが、自分の中の第六感のようなモノが気持ち悪さを感じ取っているのだ。
「……はぁ困ったものね」
『何が困ったの? あぁもしかして、こんなことに駆り出されて寝れないなんていやとか考えてる?』
「そうじゃないわよ。なんというかな……この倉庫、変な気配がするというかなんというか……」
私の言葉に頭上を飛ぶメイは小さく首をかしげた。
『さぁ? 私は何も感じないけれど?』
「そう? やっぱり、気のせいかしら?」
『そうじゃないの? それよりも、もうすぐ地下に降りる隠し扉があるはずよ。見逃さないでね』
「はいはい」
メイに言われてクリスは今まで以上にランタンの明かりをあちらこちらに当てながら倉庫の中を進んでいった。




