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使用人と一日の終わり

 太陽が西に沈んだあと、クリスは再びメイド長に呼び出された。

 時刻は夕食のすぐあとで住み込みの使用人以外はすでに帰宅している。


 現在、メイド長の部屋にいるのはクリスとメイド長の二人だけだ。ただし、クリスの容姿は元のクリスティーヌ姫である。


 メイド長は難しそうな表情を浮かべながら彼女は小さくうなづいた。


「クリスティーヌ姫。本日の使用人体験はいかがでしたか?」

「うん。なかなかいい体験をさせてもらったと思っているわ」

「そうですか。それはよかったです……それで、ここからが問題なんですが……」


 彼女が切り出すとクリスも自然と顔が険しくなる。


「……例のクリスティーヌ様の専属使用人の件につきましては別のモノを推薦することによって解決しました。ただ、国王様に納得していただけなかったので……その、今日の使用人体験について話してしまいまして……国王様は対して気にした様子は見せませんでしたが、その……申し訳ございません! どのような罰でも受ける所存です!」


 そのままメイド長はお辞儀を通り過ぎて体位を低くし、地面に頭を伏せる。


「ちょっと! 大丈夫! そんなに気にしていないから! ほら、お父様に何か聞かれても私がうまいこと言っておくから! それで? なんて言ったの?」

「はい。クリスティーヌ様のご要望で使用人体験をすることになり、それを手伝ったとだけ……」

「そう。わかったわ。ほら、いつまでもそんな姿勢でいないで立ちなさい」

「はい」


 クリスに促されてメイド長が立ち上がる。


「まぁ代わりの使用人。楽しみにしているわ……それにしても、よくあのお父様にそんな話ができたわけ」

「はい。少々ご機嫌がよろしかったのと、提案したメイドの条件が良かったので……」


 メイド長はそう言いながら何とも言えないような表情を浮かべる。これは、言外にそのメイドはダメだと言っているようなものだからだ。

 おそらく、本人は突然姫様の専属だなどと言われて舞い上がってしまうだろうから、罪悪感が余計にすごい。


 そんなことを考えているとメイド長はグイッと顔をこちらに近づけてきた。


「……一応、そのメイドにはクリスティーヌ様直々のご指名ということにしてあります。一応、国王にも顛末を報告するように命じられておりましたのでそういうことにしたと伝えておきました。これで話は以上です。何かご質問はございますか?」

「いえ、特には……」


 クリスがそう答えると、メイド長は小さくうなづいてホッと息を漏らした。

 クリスはそのまま帰ろうとするのだが、その背中に普段ではありえないような一言が飛んできた。


「そうですか。それでは、お部屋までお供いたします」

「いいよ。わざわざ」

「いえいえ、使用人体験をしていただいた帰りに一人で帰したなどと知られては状況が悪くなる一方ですので……」


 彼女はとんでもないことをさらっと言いながらこちらの方へと歩いてくる。


「えっと……そうなの? というか、割とはっきりというようになったね。体験前に比べて……」

「おや、クリスティーヌ様こそ使用人体験の前に比べて随分と変わられたと思いますよ?」

「えっ? 私が?」


 クリスが尋ねると、メイド長は温かい笑みを浮かべてクリスの顔を見た。


「はい。以前に比べてとても素敵になられました……魔王城からお帰りの時はいつも人の目を見て、自分を偽っているように見えましたから……しかし、今はちゃんとご自分を偽っていないクリスティーヌ様ですよ」


 彼女はそういうと、“部屋に戻りましょう”とクリスに促した。

 クリスはその顔に微笑を浮かべて、うなづいてから彼女と一緒に自室へと戻って行く。


『ちょっと、部屋に戻った後にでも倉庫に行くのは忘れないでよ』


 そして、メイド長の部屋を出る直前に聞こえてきたメイの声でこの後すべきことを思い出すのであった。

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