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使用人と昼食

 昼休み。それは労働者たちにとって至福のひと時でもある。

 仲の良い同僚との話に花を咲かせて、おいしい昼食を食べる。


 それが一番の理想形であろう。


 姫としてのそれはさみしいモノだった。

 広い部屋にひとりだけで食事をとる。


 王族なんてそんなモノなのかもしれないが、魔王城で配下の魔族や入れ替わる前のクリスたちを交えての食事はとても楽しいモノだった。

 そして、今クリスが参加している王宮食堂にての昼休憩も魔王城にいたときと似たようなにぎやかさがあった。


 同僚同士が話に花を咲かせて、それに上司が加わるときもある。


 誰もが和気あいあいとしていてとても雰囲気がいい。


「クリスさん。ご一緒に食事でもいかがですか?」


 つい最近入ったのだというメイドがクリスに話しかける。


「えぇ。喜んで」


 クリスはそのメイドの誘いに笑顔で答え、食事をのせた盆を持って彼女のあとについていく。


「私、最近ここに来たばかりで話相手が居なくて……それで、私みたいに入ったばかりのクリスさんなら話相手になってくれるかなって思ったんです。ほら、お仕事がなかなか覚えられなくてとかいろいろとあるでしょう?」


 メイドは席に着く前から話を始める。


「へぇそうなんですか……」


 目をキラキラと輝かせて話をするそのメイドに対して“自分は今日だけだから”とはとても言いにくい。

 やがて、ちょうど開いていた二人席を見つけてそこで向かい合うようにして座る。


「それでですね。私はメイド服にあこがれてこの王宮に入ったんですけれど……あっ」


 夢中になって話をしていた彼女が突然、固まった。

 何かを思い出したかのように口を開けたまま固まってしまった彼女にクリスが話しかける。


「どうしたの?」

「いけないいけない。私ったら話に夢中で自己紹介を忘れていたわ。私はアニー。改めてよろしく」

「あぁなるほど……私はクリスよ。よろしく」


 どこまでもマイペースというか、変わっているというか……彼女が指しだした右手を取り、クリスはアニーと握手を交わす。

 それがうれしかったのか、アニーは満面の笑みを浮かべる。


「そうだ。先ほどの話なんですけれどもね……」


 彼女は話し好きのようで様々な話をしてくれた。


 この城でメイドになって苦労していること、自分の出生や過去の面白かった出来事……クリスは時々相槌を打ちながら彼女の話を聞く。


「それでですね。その時のあのお方の反応と言ったら……おっと、もうこんな時間。早く準備しないと時間に遅れてしまいますね」


 彼女の言葉につられるようにして食堂を見回してみると、確かに使用人たちは食器の片づけを始めていて、それが終わった人から次々と退室して行っている。


「クリスさん。楽しいひと時をありがとう。また、お話ししましょうね」


 アニーはそう言い残すと、あわただしく席を立つ。

 クリスも午後の仕事に遅れるわけにはいかないので食器にわずかに残った食事を腹に収めると席を立って片づけをする使用人の列に並んだ。


 後からメイに聞いた話によると、その食事風景を食堂の端からメイド長はずっと眺めていたそうなのだが、この時クリスはアニーの話を聞くのに夢中でそれに気づくことはできなかった。


 食器を片づけたクリスはメイド服を軽く正して次の仕事場へと向かっていった。

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