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使用人と井戸

 王宮の裏手にある井戸。

 普段、あまり人が訪れないその場所にクリスと国王の姿が、あった。


 どうして、このような時に限って、しかもこんな場所にいるのだろうか?

 クリスは頭を垂れたまま必死に考える。


 そもそも、国王は自ら水を汲みにいかないし、行くのだとしても王族専用の井戸が他に存在している。

 場所もちゃんと確認したので、井戸を間違えたといいう可能性は低い。


 国王はじっとクリスの姿を見つめたまま動かない。


「そなた」


 この状態になってから約十分後。

 ようやく国王が口を開いた。


「はい」

「少し尋ねたいことがある。ついてこい」

「かしこまりました」


 先輩メイドに水をくむように頼まれてはいたのだが、国王に呼ばれては仕方ない。

 クリスはその場にバケツを置いて国王の後についていく。


「国王様。何の用事かしら?」


 クリスは国王の耳に届かない程度の声量でメイに尋ねる。


『知るわけないじゃない。まったく、メイドを捕まえて何をさせようっていう魂胆なのかしら?』

「さぁ? 私が知るわけないじゃない」


 そんな風にひそひそと会話をしながら国王の後ろをひたすら歩く。

 やがて、国王はある部屋の前で立ち止まった。


「えっと……ここは?」


 クリスとしてはその部屋がどこかわかりきっていたのだが、ここで何も尋ねないのはあまりに不自然だ。

 国王は小さく息を吐いて首を横に振った。


「なんだ? いまどきのメイドは王宮の中ですら把握していないのか?」

「申し訳ございません。何分、今日が初めてでして……」


 怒るかと思ったが、クリスの返答を聞いた国王は満足げな表情を浮かべた。


「そうか。だったら問題ない。さて、それを踏まえたうえでそなたに頼みがある」

「はっはい。なんでしょうか?」

「この部屋の主たる小娘の世話を頼みたい。礼儀など必要もないから、楽であろう」


 お前は私のことをどう見ているんだ。と言いたくなるが、それをぐっと抑える。


「しっしかし、国王陛下。私のようなモノがその……そのような役目は……とても重すぎます」


 とにかく、今はこの状況を回避するのが最優先だ。というより、状況が飲み込めなさすぎる。何をいきなりメイドを適当に捕まえて姫の相手などさせようとしているのだろうか? これはいくらなんでも状況がおかしすぎる。


 国王は断るクリスを目の前に残念そうな表情を浮かべた。


「そうか……クリスには井戸まで水を汲みに来るような下っ端メイドが似合いと思っていたが……そなたは見た目も地味であまり美しくない。適任だと思ったのだが、やってはくれないのか?」


 それだけ嫌味を言ったうえで誰が引き受けるのだろうか? そもそも、そんなこと自分の世話を自分でするようなモノではないか。いや、もともと他の王族に比べて使用人の数が少なく、結局自分ですることが多いので変わらないのかもしれないが……

 とりあえず、そんなことはどうでもいい。この場で断らなければ、使用人体験ではなく、本物の使用人になってしまう。


「それでは頼んだぞ」


 国王はクリスの話など聞き入れる様子もなく、立ち去っていく。


 結局、その場には呆然とした様子のクリスが取り残されるのみであった。


「いや、これどうすればいいのよ?」

『さぁ? まぁいいんじゃない。気楽にやれば』


 まぁ自分の使用人に対して何かを言うつもりはない。

 別に選考基準を定めているわけでもなく、言ったことをやってくれれば十分だからだ。


 しかし、なんでよりによって今日、しかもあんな方法で選ぶのか?


 クリスの頭の中はそんな疑問で埋め尽くされていた。

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