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使用人の朝

 クリスが起きてから数分後。

 着替えが終わったクリスの横でメイド長が目を覚ました。


 彼女は起き上がるなり、クリスの姿を見て飛び退いた。


「えっと、クリスティーヌ姫? どうして、こちらに?」

「忘れたのですか? 私の使用人体験ですよ」


 クリスがそう言うと彼女は少し考え込むような素振りを見せたあとに小さくため息をついた。


「夢というわけではありませんでしたか……」

「まったく、そんな大切なことを忘れるなんて……」

『私の記憶が正しければ、あなたも忘れていたはずだけど?』


 クリスはメイの言葉など聞こえていないかのようにメイド長の方へと歩いていく。


「まぁそういうわけだから、私は今日一日新人メイドだから、ご指導よろしくお願いします」


 そして、クリスは自身も忘れていたなどという事実は棚にあげて、メイド長に頭を下げるのであった。


 何よりも大変なのはそれに応対するメイド長の方であり、何を言っていいやらわからないといった様子で彼女の前に立ちつくしている。


「あっあの……」

「姫様とか、クリスティーヌ姫とかはなしですよ。そうですね……気軽にクリスって読んでもらってもいいかしら?」


 恐らく、“姫様”とでも呼ぼうとしていたのであろう。

 メイド長はそこで言葉を詰まらせてしまった。


「それで、朝は何をすればいいですか? メイド長」


 クリスはメイド長の意見を封殺するように満面の笑みで彼女に問いかけた。




 *




 起きてからしばらく、朝日が昇り始めた頃。

 クリスの姿は中庭にあった。


 彼女の回りには数人のメイドがおり、そろって草木に水をまいている。

 メイドの仕事は朝から夜までたくさんある。

 のれも立派な仕事の一つだ。


「クリスさん。あちらにもお願いします」

「はーい」


 今のクリスの容姿は黒髪を三編みにして、ほほにはソバカスが目立つ女の子だ。

 前日にいつの間にか用意されていた変身魔法をしっかりとかけてあるため、正体がばれることはまずないだろう。


 クリスは井戸から水をくんでは、それを中庭の花壇に運ぶ。


 先輩メイドたちがその水を受け取って満遍なく水をまく。


「クリス。もう一回だけ井戸まで行ってくれないかしら?」

「はい。かしこまりました」


 クリスはバケツを受け取って井戸の方へと走り出す。

 ほとんどのメイドたちは特に気にする様子なくみているが、この新人メイドの正体を知っているメイド長以下一部のメイドは気がきでない様子だ。

 クリスの身に何かあったら……よっぽどのことでない限り、何かがあるということは無さそうだが、それでも最悪の可能性は常に頭をよぎる。


 多少転んだだとか、仕事がきついだとかなら、彼女は笑って許してくれるだろう。

 しかし、目に見えるけがをさせてしまった場合、仮に彼女が許しても、さすがに国王あたりが許さないのではなかろうかという不安だ。


 国王はクリスの動向にこそ無関心を通しているが、一国の姫がけがをしたとなれば話は大きく変わる。

 おそらく、国の威信をかけて原因を追及し、最悪の場合はメイド共々命を落とす可能性すらある。


 それをクリスが理解していないのだからなおたちが悪い。


 正確にいえば、クリスだけではなく、彼女の頭上であれこれ指示を出しているメイもなのだが……もっとも、メイドたちにはメイの姿は見えないので彼女たちからすれば、クリスが勝手に判断して、勝手に動いてるようにしか、見えないのだが……


 さて、話の視点をクリスに戻すとしよう。


 先輩メイド(何も知らない)に頼まれて、彼女は裏庭付近にある井戸に向かっていた。

 もちろん、道に迷わないようにとメイが頭上で次は右、次は左と道の指示をする。


 それに従いながらクリスは井戸の方へと向かって行った。

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