兄妹たち
最初は皆、席に座って食事を楽しんでいた宴であったが、今は立食パーティのような状態になっている。
メイに聞いたところ、確かに決まりでは席に座って食べることになっているが、大体はこのような形になるのだという。
その中でクリスは、一通り回ってあいさつを済ませた後、時々自分のもとを訪れる民衆に笑顔を振りまきながら、おとなしく自分の席についていた。
現在の自分の立場を考えて、必要以上に会場内を歩き回って、いろいろと話をするよりもこの場でおとなしくしていたほうがいいと判断したからだ。
クリスはふと、思いついたように会場内で愛想を振りまく兄妹たちに視線を向けてみた。
自分とは違いきれいに着飾っている彼らの周りにはたくさんの貴族たちが集まっている。
それに比べて、自分のところにあいさつしに来るのは一般の民衆たちだけだ。
その状況に対して不満はないのだが、兄弟たちが席に戻ってくるたびにチクチクとそのことを言ってくるのだ。
「あら、クリスティーヌさん。あなたのところには一人も貴族のお方からのあいさつがないようで……民衆の皆様からしか話しかけられないなんて、王族としてどうなのかしらね? もっと、努力をされたらいかがですの?」
そんなことを考えている横からこれである。
今、自分の机の前に立っている人物……確か妹で名前はクレアだったはずだ。
彼女は傍らに貴族と思われる青年を連れている。
「これはクレアさん。私とて努力はしていますよ。あいさつは欠かしていませんし……」
「そういうことを聞きたいのではありませんの。あぁまったく、なんでこのような人間が私の姉なのでしょうね。とんだ恥さらしですわ。そうは思いません?」
クレアは横にいる貴族の青年に話しかける。
彼は、少し困惑したような表情を浮かべながら小さくうなづく。
「ですわよねーまったく、何で助かってしまったのかしらね? いっそのこと魔王に殺されていればよかったものを……」
『クリス。抑えて』
自分の背後にいた、メイから声がかかる。
視線をやや下に落としてみると、無意識のうちに彼女から見えない位置にある膝の上のこぶしを強く握りしめていたようだ。
「あいさつも済みましたし、行きましょう。グレン様」
言いたいことだけ言ったクレアは青年の手を引いて立ち去っていく。
その時、青年が二度ほどクリスの姿を見ていたが、その意図などクリスは理解できなかった。
クリスは席から立ち上がり、会場の外へと向かう。
『クリス。どこに行くの?』
「いったん会場の外に出て頭冷やしてくる」
途中、何人かに声をかけられた気もするが、クリスはそれらにこたえることなくまっすぐと会場の外へつながる扉を目指していった。
*
会場のすぐそばにあるバルコニー。
クリスはそこの手すりに手を置いて大きくため息を吐いた。
そのすぐ目の前……バルコニーの外にメイが姿を現す。
『大丈夫?』
メイが聞く。
心配してくれているのだろう。しかし、クリスはそれに答えを返さずに彼女に質問をぶつけた。
「ねぇメイ。あなたはずっと、あれに耐えてきたの?」
クリスが気にしていたのは、兄妹たちの態度が魔王城の件をきっかけに始まったのか、ずっと続いているのか……
ただ、魔王城でのクリスのふるまいを見る限り、後者である可能性が高い。
確かに国王の態度を見る限り、碌な扱いを受けていなかったのだろうが、それにしても反動が大き過ぎる。
魔王城内では常にお菓子を持ち歩き、それを食べながら歩いていたりしていた。
メイはクリスの言葉を肯定するように小さく首を盾に動かした。
「そっか……」
クリスがそういったとき、誰かがクリスの肩をたたいた。
「はい」
それに反応したクリスが振り向くと、先ほどクレアと一緒にいた青年が立っていた。
「えっと、あなたは……」
「失礼。私はグレンと申します。少しお話いたしませんか?」
そう言って、グレンと名乗った青年はさわやかな笑顔を浮かべた。




