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勇者の答え

 王宮の裏庭にある畑のすぐ横。

 ここは本来なら、自由に開放されている場所ではないのだが、クリスの権力を持って強引にこの場所への道を開けさせたのだ。そのため、裏庭にあるのはクリスと勇者の姿だけだ。


 クリスはいつも自分が体を預けている木の前に立ち止まると、彼の方を向き直って深々と頭を下げる。


「突然、このようなところへ連れてきてしまい申し訳ございません」

「姫! 頭を上げてください! 気にしていませんから!」


 その行動におどろいたのか、勇者はあからさまに動揺している。それもそうだろう。一国の姫にいきなり声をかけられたかと思えばそのまま、手を引かれてこのような場所に連れてこられたうえ、クリスが深々と頭を下げ始めたのだ。

 これで驚かない人間というのはかなり限られている。


 だが、そんなことは関係ない。

 あまり時間を気にしていなかったクリスも悪いのだが、宴が本格的に始まるまで時間があまりない。


 用件を早急に述べないと彼を説得する時間が無くなってしまう。


 私は勇者の目の前に立って小さく息を吐く。


『クリス。がんばって』


 頭上から声援を送るメイに返事をする代わりに小さくうなづく。


「勇者様。実は折り入ってお願いがあります」


 クリスは冷静に事情を整理しながら、正直に(当然ながら見た目は姫で中身は魔王という状態を伏せた上であるが)話をする。

 勇者は時々うなづいたりしながら真剣に話を聞いている。


 一通り、話を聞いてた勇者はあごに手を当てて少し考え込むような動作を見せた後に口を開いた。


「うーん……そうですね……えっと、まず、私個人の意見として姫様は王宮を離れないほうが良いかと思います。その。離れるにしてももう少し様子を見てからの方がいいかと……」

「つまり、今すぐ離れない方がいいってどういうことですか?」

「……非常に言いにくいのですが、いくら勇者と呼ばれているからと言って私だけの力ではやれることに限界があります。姫様が本気でおっしゃっているというのは理解していますし、あなた様の事情も十分に理解しているつもりです。しかし、こればかりは……」


 勇者は心苦しそうな表情を浮かべている。

 ところどころ言葉がつまるのは慎重に言葉を選んでいるからだろう。しかし、だからこそクリスは違和感を感じざるを得なかった。

 魔王城に乗り込んできたときや帰りの馬車の中での彼はもっと堂々としていた。


 断るにしても、“そんなことはできない!”ときっぱり言って立ち去るぐらいのことはするはずだ。


 それは頭上にいるメイも感じているようで彼女は勇者を見て眉をひそめていた。


『おかしいわね。まるでかつての彼に戻ったみたい』


 彼女がポツリとつぶやいた言葉に思わず反応してしまいそうになるが、勇者がメイの姿を認識できないという状況でそれをすれば勇者に変な印象を持たれかねない。

 しかし、確かに目の前にいる勇者はクリスから聞いていたイメージそのものだ。頼まれたらなかなか断れず、強い姉の背後でビクビクと震えている……まさにその通りだ。とてもじゃないが、魔王城でこちらの話も聞かずに一方的に攻撃を仕掛け、“害悪”だの“滅びろ”だの言っていたあの勇者と同一人物だとは思えない。


 予想外の事態に困惑するクリスを前に勇者はごちゃごちゃと言い訳を続けている。


「いえ。ですから、その……非常に申しあげにくいのですけれども……いや、姫をすくいたくないというわけではありませんよ。その……あの……」

「わかりました。もういいです」


 いずれにいしてもこのままでは拉致が開かない。

 出来れば、彼からいい返事が出るまで粘りたかったが、そんなことをしている余裕はない。


 クリスは勇者の横を通り抜けて、王宮へと戻っていく。


「あの! 待ってください!」


 勇者が何やら声をかけているが、それを聞き入れる理由などないのでクリスはそれを無視する。


 あまりにも期待外れだ。


 クリスの心の中は半ば絶望にも似た感情が支配していた。

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