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春の準備

 王宮に戻ってから約二か月。

 雪が解けて、徐々に春の陽気が近づいてきたこの時、クリスはようやく王宮内を出歩けるようになった。

 雪が降る森で捕まり、王宮へ戻された後クリスはずっと自室に監禁されていたのだ。


 部屋の入り口には衛兵が常にいて、部屋から出ようとしてもすぐに取り押さえられてしまう。

 窓からの脱出も試みたが、窓の下にもそれを予想した衛兵がいてそれもかなわない。


 ならばいっそとメイの提案で部屋の中でおとなしくしていたのだ。


 そして、ついに十分に反省したと判断され、部屋の外に出ることができたのだ。


 王宮内は現在、春の到来を祝う宴の準備であわただしくなっている。


 何でも、この宴には勇者も招かれるとのことでどこかにいるであろう彼に連絡が付けば、王宮に駆けつけてくるはずだ。

 春の宴は王宮内外からたくさんの人が集まり、ある意味で脱出のチャンスに見えるが、今回はそれをあえて逃して勇者に協力を仰ぐ。もちろん、勇者が協力してくれる保証はないし、彼が国王にそのことを話してしまえば再び監禁されるというリスクもあるが、それは承知の上だし、断られることはあっても国王に姫が脱走しようとしているなどと話すことはないと考えている。


 だが、それをするにしてもそれなりに準備は必要だ。


 まず、唐突に王宮から逃げ出したいという話だけをしても要領を得ないので細かいところは勇者に任せるにしてもある程度は作戦を組む必要がある。

 そのためには具体的な脱出計画の作成と勇者を納得させるような理由を提示する必要がある。


 クリスはそのことを頭の中でまとめながら裏庭にある畑に出た。


「クリスティーヌ姫!」


 裏庭に出ると同時に声をかけられたので考え事をしていたクリスは思わず飛びのいてしまった。


 ここには人がいないはずだと思いながら裏庭に目を向けると一人の青年がこちらを向いて片膝をついていた。


「えっ?」


 クリスが困惑しているところにすかさずメイがフォローを入れた。


『忘れたの? ほら、冬の初めに畑の世話を頼んだ……』

「あぁー思い出した。ちゃんとやっててくれたんだ」


 王宮から脱出するということばかり考えていて、彼のことを半ば忘れていたが、当の本人は忘れずに畑の手入れをしてくれていたようだ。

 クリスは柔らかい笑みを浮かべると、彼の方へと歩み寄る。


「私が不在の間の手入れありがとうございました。何か種を植えたいのですが大丈夫ですか?」


 言葉の裏に今後も世話をしてくれるかというメッセージを乗せて彼に問いかける。


 彼は顔を上げさわやかな笑みを浮かべた。


「はい。もちろんです。今後ともお世話させていただきます」

「ありがとう」


 クリスは彼の横を通って畑の方へと歩いていく。


『ふーん。きれいに整備してあるのね……』


 その畑を見ながらメイが感心したような声を上げる。

 彼女の言う通り、畑には雑草一つ見当たらず、しっかりと耕してあった。その傍らには道具の置き場とみられる簡易的な小屋が建ててあった。


「その中には畑仕事の道具のほかにいくつかの植物の種が入っております」


 小屋に興味を示したのがわかったのか、青年が駆け足でこちらにきて説明をする。


「そうですか……でしたら、この中にある種からいくつかを今から植えましょうか」

「はい。わかりました」


 どうやら、この青年は他の使用人やメイドたちとは違い割と近い距離で自分に接してくれるようだ。


 そんなことを考えながら、クリスは植物の種を選び始めた。

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