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山のふもと

 吹雪を抜けてから三日。

 クリスとメイは予定通り、森の中から見えていた山脈に到達していた。


 メイがいったん上昇して周りを確認するが、捜索隊の姿はない。


 出発した時は不安ばかりだったが、まさかここまでうまくいくとは思っていなかった。


 メイは改めて山脈を見上げる。


 これまでの平野がウソのようにその山脈は高くそびえていて、少し登るのに躊躇する戸惑うほどだ。


「ねぇこれを登るの?」

『うん。まぁそうだね。せっかくここまで来たし、登らないとね? 引き返すわけにもいかないし……』


 メイの言葉にクリスは空を見上げてしばし考え込む。


 おそらく、彼女としても判断しかねているのだろう。この山に登るリスクと引き返すことによって発生するリスクそのどちらも小さくはない。

 命の危険があるのは間違いなく前者であるが、後者はこの後の脱走のチャンスがつぶれる可能性がある上にクリスの王宮内の立場がますます悪くなる可能性がある。


 それもまた、避けたい事態であった。


 クリスはしばらく考え込んでから小さくうなづいた。


「……私、登るよ。この山」


 その瞬間、メイは心の中でガッツポーズをする。

 これほどうまくもくろみ通りに事が進むとは思っていなかったのだ。


 クリスは岩場に手をかけ、山を登り始めた。


 その時である。


「いたぞ! クリスティーヌ姫だ!」


 背後から衛兵のモノだと思われる声が飛んできたのだ。


『まずい! クリス!』

「わかってる!」


 先ほどは全く影も形も見えなかったというのにどこから現れたのだろうか?

 メイはそんな疑問を持つも深く思考することもなく逃げることに全力を尽くす。


 とにかく、山の上へ上へと登っていくが、衛兵たちは次々と集まってきて山を登ってくる。


「なんでこんなことに!」

『わからない。上空から見たときは確かに捜索隊の姿なんて見えなかったのに!』

「それ、単純に木立の中に紛れて見えにくかっただけじゃないの?」

『あっ』

「あっじゃないわよ! ちゃんと見なさいよ!」

『なによ! そもそも最初に森に入ったのはどこの馬鹿よ!』

「だーれがバカだ! そう思うなら止めなさいよ!」

『あぁもう好きにしなさいよこのバカ!』

「好きにさせてもらってるわよ!」


 二人で大喧嘩をしながら(傍から見ればクリスが何か、虚空に向かって怒っているというとんでもない絵図であるが、気にしてはいけない)山を登っていく。

 本来なら、こんな崖を登っていくはずではなかったのだが緊急事態だ。クリスの体力が心配なのと、彼女が落ちる可能性が高いのと、彼女があまり深く考えないで行動するという心配だけで……いや、心配だらけな気がしてきた。


 どれくらい心配かというと、彼女の発言がすべて死亡フラグに変わるのではないかというぐらい心配だ。


「きゃっ!」


 そして、案の定クリスは手を滑られ、崖の下へとまっさかさまに転落し始めた。


 心配がまさに的中した瞬間である。

 先ほどまで喧嘩していたことなどすっかり忘れて手を伸ばすが、メイはクリスの手を(すり抜けてしまうので)つかむことができない。


「お前たち! クリスティーヌ姫を受け止めろ!」

「はっ!」


 クリスの落下地点と思われる場所に山を登ろうとしていた衛兵たちが集まり、クリスを受け止めようとする。

 彼女は何を考えたのか必死に衛兵を避けようとしていたが、その抵抗もむなしく彼女は衛兵につかまり取り押さえられてしまった。


「ちょっと、話しなさいよ!」

「クリスティーヌ様確保! 全班に通達! クリスティーヌ様確保! 繰り返す! クリスティーヌ様確保!」


 通信兵と思われる男性が魔法を使って大声高らかに呼びかける。


『あーあ、やっちゃった……』


 そんな状況であるにも関わらず、メイはどこか他人事のような口調でその光景を見下ろしていた。

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