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雪の森

 王宮の外の森はかなり広大なモノだ。


 その中を地図もコンパスさえもなく突き進んでいく。


『ちょっと、大丈夫なの?』

「大丈夫大丈夫。所詮は王都の裏でしょ?」

『そうだけど……』


 メイはクリスの後ろについて慎重に現在位置を確かめながら進んでいるのだが、そちらにばかり注意していると今度はクリスを見失いそうになってしまう。

 メイの場合遭難しても死にはしないが、クリスと離れてしまうと自分の意志を伝えられる相手が居なくなってしまうのでかなりきついものがある。


 クリスはまったく知らないのだが、この王宮の森は完全国有地である。


 国防の為にそうしているのだから当然と言えば当然なのだが、そのためにこの森の外周には魔物の侵入を防ぐ結界が張られているのだ。

 そのため、魔物に襲われる不安はないのだが、その分森の中は迷路のように複雑に入り組んでいる。


 クリスはどこまで行く気なのかまったくわからないが、彼女一人でここに来た場合、入り口ぐらいまでならともかく奥まで入っていたのなら恐らくは発見されるより前に死んでしまう可能性すらあるというそんな場所だ。


「メイ。このあたりでいったん寝ようか? 火は焚いた方がいい?」


 クリスが立ち止まったのは、森の中にある少し開けた広場のような場所だ。


『ここならいいかもね。まぁこの森には魔物は出ないでしょうし、逆に火を焚いて発見されても考え物だから防御結界だけ張って寝たらどうかしら?』

「……まぁあなたがそういうのならそうするけれど……もう一つ大事なことがあるでしょ?」

『食事だったらその辺の野草を取って食べなさい。キノコはともかくどの草が生で食べても大丈夫かぐらいなら知っているから』


 メイの言葉を聞いたクリスはあからさまに肩を落とした。

 その様子からして、今の今まで食事で苦労するなどということを想定していなかったのだろう。


 もっとも、メイにしてもさっさと王都へ抜けるきではいたので食料を持っていくようにというアドバイスはしていない。

 だから、メイも多少は悪いのだろうが、今回のことはどう考えても突然、森の中に隠れようと言い出したクリスが悪いと頭の中で処理された。


 クリスはぶつぶつと文句を言いながらあたりに生えている野草を採りはじめる。


「そこに映えている黄色い花。それなら食べれるから……あぁ白いのはダメ。毒があるよ」


 今は冬なので木は葉を落としていて食べれるような木の実は見当たらない。

 だからこそ、雪の中をかき分けて食べれる野草を探すという手段に限られてしまっているのだ。


 できれば暖を取るという意味でも火をおこしたいところだが、王宮のすぐ横にいる以上、そんなことはできない。

 これは先ほども同じことを考えていた気がする……


「うわ。これまずい……」


 メイがそんなことを考えている間にクリスは黄色の花を口に含み顔をしかめている。


 しかし、こんな状況だと逆に森の中(こんなところ)にいるなんて言う発想に至らない可能性がある。

 クリスの不在がいつ判明するかわからないが、このままクリスに任せておく方が念密に計画を立てるよりもあっさりと王宮から脱走できる気すらしてくるのだ。


 メイはにこやかな笑みを浮かべてクリスの横に降り立つ。


『クリス。このまま寝たら死んじゃうだろうから、雪で暖がとれそうなモノ作ろうか?』


 メイは苦い草を前に四苦八苦するクリスにそう語りかけた。

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