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閑話 ある冬の王宮(後編)

「クリスティーヌ!」


 国王は周りが止めるのを無視して、大声で娘の名を呼びながら扉をあけ放つ。


 王女の部屋という割には狭すぎるその部屋をぐるりと見回してクリスの姿を探すが、側近の話とは違いクリスの姿は見当たらない。


「どこへ行ったのだ?」


 実をいうと先に執務室をのぞいたのだが、そこにもクリスの姿はなかった。


 国王は窓に向かっておいてあるイスに座り、小さくため息をつく。


「まったく……どこに行きおったのか……」


 そこのイスに座ると、王宮の壁の向こう。

 王都の様子が一望できた。


 雪が積もる中、たくさんの人々が往来する通りにはここから見てもわかるほど活気にあふれている。


「まったくこのようなものを見て何が楽しいのだか……」


 こんなところにイスを置く目的。

 それは、こうして王都を見下ろすために他ならないだろう。


 しかし、それの何が楽しいのか理解できない。

 ここから人民の生活を見るよりも華やかな貴族を見ている方がずっといい。ごちゃごちゃしている街よりも整然とした王宮の方が見栄えがいい。

 外を見るよりも中だけを見ている方が気分がいいのにどうして、彼女は外ばかりを見るのだろうか?


 いや、椅子が偶然こう置かれているだけで彼女がそうしているとは限らないのだが、このような光景を見てしまってはそう考えてしまっても仕方がない。


 祖父はよく国王になる前に王宮を抜け出して王都へ行くことがあったと聞いている。


 何でそんなことをしたがるのだろうか?


 国内の状況など書類で見ていればいいのに……自らの目で見たところで状況が変わるわけではない。


 まったくもって理解ができない。


 しばらくその場で考え込んでいた国王だったが、いつまでもクリスが部屋に戻る気配がないことと話がしたいのなら呼び出せばいいだと考えイスから立ち上がり、部屋の外を目指す。

 部屋を出る前にあらためて部屋を見てみると、外から夕日が差し部屋の中を真っ赤に染め上げていた。


「まったく……あの娘はどこに行きよったのだか」


 国王は小さな声でそうつぶやくと扉を開けて部屋から出て行った。




 *




 普段、王都の庭で庭師の仕事をしている青年は裏庭にある畑を訪れていた。

 クリスティーヌ姫がつい先日まで管理していた畑はきれいに草が刈られ、雪の中であるにもかかわらず茶色の地面が顔を出している。


 きれいに管理されているな。ただその一言に尽きる。


 先ほど、クリスティーヌ姫から直々に畑の管理を依頼されたのだが、これを崩したくないというのは納得だ。

 なぜ、自分にこのようなことを頼んだのか知らないが、同時にクリスティーヌ姫が研究を指示したのだという種があるのだから、それを栽培してほしいという意思表示なのだろう。


 青年はさっそく地面からわずかながらに生えている雑草を抜き始める。


 いつもなら多少のモノは見逃すのだが、今回は姫様直々の依頼だ。手を抜くわけにはいかない。


 その作業をしているうちにここまでしてどうして急に管理を人に任せようとしたのかという疑問も浮かぶが、彼女は自分とはちがう世界に住んでいる人間だ。

 おそらく、彼女には彼女なりの考え方があるのだろう。


 青年は余分な考えを捨てて農具を手に取る。


 こちらは、最近購入したばかりであろう新品ばかりだ。


「さて、がんばりますか」


 農具を元の場所に戻して、青年は城の中へと戻って行った。

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