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いれかわり

「……わしは……」


 魔王はゆっくりと体を起こす。

 ゆっくりと意識が覚醒し、確かクリスを受け止めようとしてどういうわけか頭をぶつけたはずだ。などと考えながら体を起こすと、自分がソファーに寝かされていることが分かった。

 横を見れば側近たちが魔王たちのことなど気にも留めず会議を続行していて、玉座のちょうど真下にあたる位置では魔王があおむけに倒れていた。


「……っん?」


 何かがおかしい気がする。

 側近たちは熱を持って会議をしている。これはいつものことだ。実際、自分はいらないのではないかと思う。

 いつもと違うといえば珍しく倒れた場所からソファーに移動されていることだろう。

 続いて玉座の真下。そこには、魔王が横たわっている。そこでぶつかったのでおかしくはない。


 ただ、その光景を客観的にみているという状況がおかしいのだ。


 恐る恐る視線を下に落とせば、自分には似つかわしくない白くて細い腕がわなわなとふるえている。

 胸元に手をやれば、自分には本来ないふくらみがある。下半身は……確認するまでもないだろう。


 とりあえず側近たちに気づかれないようにこっそりと移動して、魔王の下により脈をとる。


 うん。ちゃんと生きている。


「起きろ。クリス。起きろ」


 クリスの名を呼びながら魔王の体を揺さぶっていると、もうろうとした様子ではあるが目を覚ました。


「えっ? 私?」

「……残念ながら魔王だ。体を見てみればわかる」

「えっ? 嘘だよね? あれだよね? いたずらとか?」


 魔王(中身はクリス)は動揺したようにクリス(中身は魔王)にすがるが、クリス(魔王)はゆっくりと首を横に振る。


「残念ながらいたずらでもなんでもなく事故のようだ」

「えっ! ちょっと! どうすればいいのよ!」


 魔王クリスが大声を張り上げるものだから、会議中だった側近たちもさすがに何かが起こっているということに気づき始めた。


「どうされましたかな?」


 側近の中でも最高齢の男魔族が声をかける。


「それが……どうやら、先ほど頭をぶつけたときに魂が入れ替わってしまったみたいなの! ねぇこれってさ、魔法でどうにかならないの? このままじゃ私が勇者と戦わなければ行けなくなっちゃうじゃん!」

「はい?」

「まぁあれだ。調べてくれればわかる。そうだ! アベルを呼べ! 奴なら調べられるはずだ」


 二人が側近に詰め寄るが、皆半信半疑と言った様子だ。

 それもそうであろう。魂が入れ替わるなどということは普通ではありえない事象だ。簡単に信じろという方が難しい。

 ただ、魔王が出した“アベル”という名前のおかげで現実味を帯び始めていた。


 アベルというのはこの城に住んでいる魔法使いだ。魔法の腕は確かなものなのだが、かなり気難しい人物なので単なる嘘や冗談でアベルを巻き込むはずがないという意識が側近たちの中にはあるのだ。


 魔王城の端からクリスの掛布団を持って駆け込んできた下っ端は、軽く説明を受けた後、息つく暇もなくアベルの下へ行けと命ぜられ部屋から姿を消す。


 あまりの出来事に作戦会議は中断し、側近たちは信じられないと口々に言いながらもそれがウソに決まっているなどという者は一人も見当たらない。


 そうしている間も卓上の水晶は紫色のままだったのだが、それに気が回るものなどその場にはいなかった。




 *




「アベル様!」


 魔王城にある四つの塔のうち正面から見て左奥にある塔の地下。

 ここに作られた書斎の扉が勢いよく開かれる。


「……騒々しい。人の部屋に入るときのマナーというものも知らんのか?」

「……失礼いたしました」


 突如、聞こえた威圧感たっぷりの声に下っ端はすっかりとひるんでしまった。

 カツカツという足音が聞こえ、下っ端の前に背が高い男性が現れる。


「何の用だ?」

「はい。魔王様の命でアベル様を及びに参りました」

「あいつがか? 何の用でだ?」


 部屋が薄暗く表情が良く見えないが、声色から彼が不機嫌なのだということが察せられた。

 下っ端はこれ以上アベルの機嫌を損ねないように言葉を慎重に選んでいく。


「まさか、言えないのか? それともつまらないことで私を呼び出そうとしているのか? わかっているとは思うが、私が今やっている研究をいったん取りやめてでも取り組みたい面白いことなんだろうな?」


 下っ端がなかなか答えないからか、イラついた様子でアベルが問いかける。


「はっ魔王様とクリスティーヌ様の魂が入れ替わってしまったとのことでして、その証明と対策について手を貸していただきたいとのことです」

「入れ替わり? あいつとクリス嬢がか?」

「はい」

「ほう」


 どうやら、興味を持ってもらえたらしい。

 下っ端は内心ガッツポーズをしながら動向を見守る。


「わかった。案内しろ」

「はっ」


 大きな仕事をやり遂げた。

 心の底からそう思いながら下っ端はアベルの部屋を後にした。

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