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閑話 ある冬の王宮(前編)

 今回の話はクリスたち以外の視点で進みます。

 王宮の中でも一番中心に位置する建物。

 そこの最上階にある部屋にその人物の姿はあった。


 この王宮の主である国王は、執務室のイスに座って書類に目を通していた。

 そこに書かれているのは主に政策に関する要望とそれに添えられた賄賂の額だ。


 国王は賄賂の額が高い申し出から順に内容を吟味していく。


 その内容は国民よりも申し出した者が得するような内容が多い。


 国王は小さくため息をつき、人払いをする。


 それを合図にぞろぞろと人が出ていき、執務室には国王だけが取り残された。


「まったく……誰もかれも賄賂賄賂と……たまに賄賂なしも上がってくるがそういうのに限って碌でもないのばかり……苦労したのなら賄賂を出してでもということか……」


 そう一人ごちながら国王は書類の山の一番下に埋もれている紙を引っ張り出した。

 おそらく、ここにあったからには賄賂なしの上申書だろう。


 国王はその申告者の名を見て眉をひそめた。


「クリスティーヌか……」


 確か農産大臣あたりだったはずだ。

 この前も何やら配るだのなんだのごちゃごちゃと言っていた気がするが、王宮で育った人間がまともな提案ができるはずがないと聞き捨てていた。


 ただ、偶然にも手に取ったからには何かの縁だと思い目を通してみる。


 どんどんと読み進めるうちに誰にでもわかるほど国王の顔色は悪くなっていった。


 新種の農作物の開発に成功。それもかなり優秀なものだ。

 それを国内に配るべきである。


 そんな内容が簡素に書かれているだけなのだが、その作物が持つ可能性に強くひかれた。


「くっあの娘やりよる」


 通りで必死に懇願したわけだ。

 おそらく、偶然の産物なのだろうがこれを成功させたのは自分だと内外に知らしめることにより王宮内で地位を確保しようとしているのだろう。

 ただでさえ、魔王にさらわれたせいで注目されているのだ。


 ここにきて、このようなことをすれば、彼女は魔王城から帰還し、国民に生活の安定を与えた人間として広く評価される可能性がある。

 それだけは何とか防がなければならない。


 一日中部屋にこもりきっていると側近は言っているが、その中で一人ほくそえみながら新たな戦略を考えているにきまっている。


 そう考えているといても経ってもいられず、国王はがたっという大きな音を立てて立ち上がる。


 部屋の扉を開けようが、人払いをしたせいで誰もいない。


 そんな廊下を国王はツカツカと歩いていく。


「許さん。私よりも王宮内で発言力を持とうなど。断じて許さん!」


 国王はクリスがいるであろう部屋へ向かって歩いて行った。




 *




 王宮の中庭。

 そこには春になれば様々な花が咲き乱れる場所なのだが、冬である今の時期はいまだ土の中だ。


 そこの中庭の管理を任されている青年は雑草を狩っていた。


「はぁ一人でやるっていうのも大変なんだよね……」


 彼は、そんな風にぼやきながら草を刈っていく。

 そんな彼は、近頃気にある噂を耳にしていた。


 何でも王宮の裏に隠された農園があるという話だ。


 話によるとそこは王族専用の畑で現国王になってからは荒れ放題なのだという。


 せっかく、そういった場所があるのだから使えばいいのにと思っても、彼に国王へ口出しできる権限はない。


「ねぇそこの庭師。よろしいかしら?」


 誰かに話しかけられたのは、そんなことをぼんやりと考えていた時だった。


「はい?」


 女性の声だということしかわからずに振り向いた青年は、その体勢のまま固まってしまった。


「くっクリスティーヌ様!?」

「様ってそんなに固く呼ばなくてもいいわよ」

「いや、あの……」


 いつも遠くから見ている彼女は王女らしくニコニコと笑いながら王女らしい言葉づかいで王女らしいふるまいをしているというのに目の前にいる彼女は名前が同じ別人のようにすら感じた。


 青年の心臓が緊張により張り裂けそうなほど高鳴っていることなど知ってか知らずか目の前の王女は口を開く。


「ねぇ、あなたが庭師ならききたいことがあるんだけど」


 そう言って、彼女はニコッと笑みを浮かべた。

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