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クリスの考え

 雪に覆われ、一面銀色になった王都が夕日に照らされて赤色に変化する。

 真っ赤になった王都を見ながら、クリスは深くため息をつく。


「どうだい? 悩みは解決できたのかい?」


 その時、ちょうど真下にある窓から声がかかる。

 下を見てみれば、この家の家主であるおばあさんが窓から顔を出していた。


「いや、残念ながら……」

「そうかい……まぁじっくり考えなさいな。まったく、こんなこと言っていると友人というよりも母親みたいだねぇ」

「いやいや、友達に年齢制限なんてないでしょ。邪魔だったら降りるけど?」

「いんやぁ。邪魔なんて言いやしないさ。いつまでもいておくれ。ただ、寒いから風邪をひかないようにねぇ」

「わかった」


 クリスの返事を聞いた女性は家の中へと体を戻す。


「あぁそうだ。何か悩んでいるんならごちゃごちゃ考えずに自分のしたいことをしなよ」


 その声を最後にパタンと足元の窓が閉じられる。


「わかったよ」


 おそらく、相手には聞こえていないであろうクリスのつぶやきは王都の喧騒にかき消されていった。




 *




 その日の夜。

 自室に戻ったクリスは天蓋付きのベッドに大の字になって寝転がる。


『お疲れ様。それで? 一日中屋根の上にいて答えは出た?』

「出ない……出ないけれど、王宮から今すぐ離れるっていうのは少なくとも得策じゃないかもしれないな。確かにこの先、魔族領の併合が進めば妖精国への脱出は困難になる。ただ、この調子だと妖精国の編入も近いと思う。そうでなくても当てはないし、頼るものもない。さすがにリスクが高すぎる。だから、仮にそうするとしたらもっと方法とタイミングを考える必要性が出てくる」

『そうか。そうかもね……私、あんまりそういうこと考えてなかった』


 メイの言葉にクリスは小さく首を振る。


「私こそ。あなたの気持ちあんまり考えてなかったかもしれない」

『いやいや、私だって短絡的な考えすぎた……』

「いや、それは……ってもうこの話はやめておこうか」

『そうね。どう考えても結論出そうにないし』


 二人で大きくため息をつく。


 ただ、ここにとどまる以上国政を放り出すわけにはいかないだろう。

 だから、しばらく国政にかかわりつつ結論を出していくことになるのだろう。


「でも、こうなんというか、いつか何の考えもなしに飛び出しちゃいそうね」

『そうこう言っていないで今すぐ飛び出しちゃう? さっきは言わなかったけれど、当てはないなんて言っていたけれど、よくよく考えたら、当てなんて最初からないも当然だし』

「……あなたの本心はどこにあるわけ?」

『さぁどこでしょうね? 知りたかったら読心系の魔法でも練習してきたら?』

「まったく……」


 にやにやと笑いながら天井を飛ぶメイの本心はかけらほどにもうかがい知ることができない。


 ただ、今すぐにクリスが脱出しても未練がないというのは事実なのだろうし、彼女があまり居心地がよくないというのもまた事実なのかもしれない。

 おそらく、賄賂を平然としているような国王だ。税金が高いという話も聞くし、掘り返せばもっといろいろと出てくるのだろう。


 それらがすべて発覚すれば、もしかしたら今の王族は現在有する王国の自治権を失うかもしれないが、何も本国にそういったことがないとは言い切れない。


 仮に本国も政治の腐敗が進んでいれば調べ上げて匿名で告発しようと握りつぶされるにきまっている。


「さて、どうしたものかな……」


 クリスは虚空に向かってつぶやいてみる。


 魔王と呼ばれていた時代にはそれなりに悪政を布いていたような気がするが、ここにいると自分がやっていたのははたして悪政と呼ぶのにふさわしいかという疑問すら浮かび上がってくる。


「……かかわるのはやめて様子を見ようかな。畑のこともあるし」

『んっ? 方針は決まった感じなの?』

「まぁそういったところ。疲れたから今日はもう寝る」


 クリスはベッドに寝転がったその体勢のまま眠りについた。

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