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冬に向けて

 裏庭の畑に通じる扉を開けると、冷たい風が一気に流れ込んできた。

 その風を受けてクリスはビクッと体をすくませる。


「寒っ」

『寒くない! うん。やっぱり、こうだといろいろと楽でいいわね』


 どうやら、メイは寒さを感じていないらしく元気よく空を飛び回っている。

 そういった意味ではうらやましいなどと思ってしまうのだが、実際にそうなりたいかと言われればすぐに首を振るだろう。

 確かに利点はあるかもしれないが、なにかと不便な気がしてならない。


 それに彼女は気づいていないかもしれないが、中身が魔王だとはいえクリスはただの人間であり、あと数十年もすれば寿命が来るし、突然死んでしまうかもしれない。

 そうなれば、メイが直接意思を伝えられる相手はアンズのみとなるのだが、不老不死とはいえ彼女がいつまでもメイのそばにいるとは限らないのだ。


 そう考えると、誰にも認識されず、誰にも理解されずにどこかに存在し続ける意味というのを彼女は正しい意味で理解できているのか不安になる。


「メイ……」

『さっボサッとしてないでさっさと畑を起こす!』

「うっうん」


 そのことを彼女に伝えようとしたのだが、彼女の勢いに押されてクワをふるい始める。


「よいしょっ!」

『甘い甘い! もっと掘り返して!』

「ここまでやる必要はあるのか?」

『わからない!』

「わからないの!?」


 そんな風に二人で会話をしながら少しずつ畑を掘り起こしていく。


 土の中から虫が出てきてクリスが叫び声をあげてその様子を見ていたメイが“魔王のくせに”などと言って爆笑していたことを始めとして、様々な過程を経て畑を何とか掘り起こすことができた。


「はぁやっと終わった」


 あまり広くない畑とはいえ、慣れない作業だったので畑のわきの草むらに腰掛けるころにはすっかり夕方になっていた。


『お疲れさま』

「はぁまさかここまでつかれるとは……」

『……そうね。でも、ちゃんと準備をしないとおいしい作物は取れないわよ」

「そうだな……」


 草が生い茂っている中に掘り返された土が地面とはまた違う色を添えている。


 そんな風景を見ながらクリスは水を飲む。


「うん。おいしい」

『ただの井戸水なのに?』

「そう。ただの井戸水なのにね」


 沢山汗をかいたからだろうか、ただの水がとてもおいしい。

 メイはニコニコとクリスの様子を眺めていたが、なにを思ったのかきの上へ飛んで行った。


「メイ?」

『ほら、こっちに上がってきなよ』


 彼女は木の上の方にある枝のあたりから手を振った。


「えっ? そういうのって危なくない?」

『大丈夫だよ。ゆっくり登れば大丈夫だから!』


 彼女に促され、クリスはゆっくりと木を登り始めた。


『頑張って! もうちょっと!』


 真上から声援を受けながら確実に一歩ずつ上へ上へと登っていく。


『ほら、ゴールは目の前だよ』

「わかってるわよ」


 少しずつ少しずつ登り続けて約十分。

 クリスはようやく上に到達することができた。


「それで……ここにきてどうしたって……」


 メイの方を向こうと顔を上げたその時、クリスの目にある風景が映った。


『ねっ? ここまで登ってきてよかったでしょ?』

「そうだな」


 枝の上に座ったクリスの瞳に映るのは燃えるような真っ赤な夕日が山々を真っ赤に染めながら地平線の王都の入り口にたつ二つの監視塔の間に沈んでいく風景だった。


「きれいだな……」

『でしょ? 夏になると少し夕日の場所がずれちゃうし、冬でもここまできれいにこれが見えるのは多くても二日ぐらいなのよ……すっかりと忘れていたけれど、今日だったのね』

「そうなんだ……」


 その後、二人は夕日が外壁の向こうに沈みきるまでその場に座って、夕日に見とれていた。


『来年もまた、二人でこの風景が見れるといいわね』


 メイがボソッとつぶやく。


「えっ?」

『別になんでもないわ』


 ただ、その言葉はクリスの言葉には届いていなかったようだったが、メイはもう一度同じことを口にするのもなんだか恥ずかしく感じたのでニコッと笑ってごまかす。


「何でもないならいいけれど……」


 そう言ってクリスは先ほどまで夕日があったあたりを眺めていた。

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