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水色の少女

 工房をでたあと、クリスは朝霧に包まれるメインストリートを歩いていた。


「待ってくださーい!」


 そんな彼女に声がかけられた。

 クリスが振り向くと、そこには工房にいた水色の髪の少女(確か名前はアンズだったはず)が必死に追いかけてきていた。


「はぁはぁやっと、追いついた……」


 必死に走る少女の姿を見るうち、クリスの中で一つずつピースが組み合わさっていく。

 目の前で肩で息をする彼女の姿を見た途端、クリスの否、魔王の中で記憶のピースが完全にはまり、かつて“魔法を教えてほしい”と自分の下に現れた少女と目の前の少女の姿が重なった。


「お前……アベルか?」

「なに? 変化の魔法で化けた姿に慣れすぎて、私の本来の姿も忘れちゃったわけ? それと、アベルって呼ばないで」


 彼女の権幕に押され、クリスは思わず後ずさってしまう。

 こんなやり取りをしていると、彼女がアベルなのだと実感できた。


「おっおう……まぁなんだ。結局、十年近くあの容姿と口調で接していたものだから……なんだ。いまさら本来の姿といかにも女の子です。っていう口調で来られてもだな……」

「身も心も見事に男になっていてわるかったわね! 女の子特有のモノがなかったとはいえいろいろと大変だったんだから! さすがに女の子を見て恋情を抱いたときは本格的に終わった気がしたわね」

「まぁそれは、あの魔法の反動というか……なんというか……」


 あまりの勢いにたじろくクリスに対してアンズは追及の手を弱めない。


「あのねぇ! 大体、あの魔法の副作用で不老不死になれるなんて聞いていなかったんだけど!」

「あなたが説明をちゃんと聞いていなかったのが悪いんでしょうが! 説明とかいいからってさっさとあの魔法を詠唱しちゃったのはどこの誰よ!」

「ぐっそっそれは……」


 今の時間が早朝だったのが幸いしてこれほど声を荒げて喧嘩をしていても人が集まってくる気配はない。

 だが、それは同時に二人の喧嘩を仲裁できる人物がいないということを意味する。


『あれ? でも、あなたがアベルということは私の姿が見えてる?』

「だーかーらー! ア・ベ・ルっていうなー!」


 ちゃんと声が聞こえていたらしいアンズはキッとメイを睨み付ける。涙目だった。




 *




 あの場で何とかアベルを落ち着かせた後、アンズの提案でクリスたちは王都のスラムの入り口にある空家に来ていた。

 アンズは家に入るなり、大量に積まれていたごみなどをどかして“三人分”のスペースを作る。


『これはまたすごい場所ね。これだけあれば何が作れるかしら』

「噂にたがわぬ性格である意味ホッとしたよ」


 ごみの山を見て目を輝かせるメイを見てアンズは大きくため息をつく。

 その横でクリスはあっけにとられて目の前の光景を眺めていた。


「……まぁいいわ。とりあえず、話をしましょう」


 半分あきらめた様子でアンズが口を開く。


 すると、先ほどまでごみの山を見ていたメイが真剣なまなざしでこちらを見た。

 この切り替えの早さを見ていると、彼女はやっぱり姫様なのだななんて感じてしまう。(ごみの山を見て目を輝かせる姫様ってどうなの? という疑問は持ってはいけないのかもしれない)

 それとも、彼女が時々漏らすように単純に人の顔色をうかがうのがうまいだけなのかもしれないが……


 ともかく、二人の視線がアンズの方を向くと彼女は満足げにうなづいてから話し始める。


「私が話したいのはな……今後のことだ。もちろん、私自身のことだってそうだし、魔王のことだって」

「アベル。魔王というのはやめろ」

「アベルっていうな。もちろん、クリス嬢のことやメイだっけか? のことも含めてだ。あまり何度も言いたくないからしっかり聞いてくれるとうれしいわね」


 彼女の言葉にクリスもメイも自然とうなづいていた。

 それを確認したアンズは少し目線を泳がした後、二人を見据えて口を開く。


「……どうやら、二人の体を元に戻すのはほぼ不可能らしい」


 彼女の言葉は、バカに静かな空家の中ではっきりと響き渡った。

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