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帰路

 鍛冶屋通りにあるマミの工房を後にしたクリスはまっすぐと帰路についた。

 気分転換が主な目的であるとはいえ、予定ではもう少し王都を見て今後の国政に役立てようなどと考えていたのだが、そんなことをする気力すらわかない。


「どうしたもんかな……」

『大丈夫よ。マミはあぁ見えて悪い子じゃないわ。変な風にはしないと思うけど?』

「だといいけど」


 マミの言葉はかなりクリスの心に突き刺さっている。

 そもそも、今自分がクリスをしているのは単なる事故の結果であり、意図的に引き起こしたわけではない。

 その上、彼女がクリスの中身が魔王であるとでもいえば、どうなるかなど目に見えている。


「それにしても……気になるな……」


 人通りが激しいメインストリートでごちゃごちゃと独り言を言いながら歩いているというのは何とも珍妙な風景かもしれないが、そんなこと気にする余裕もないクリスは会話を続ける。


『気になるって?』

「あの女の子だよ……なんとなく、会ったのが初めてじゃない気がする……でも、どこで……」


 自分の記憶にある限り、あのような子と知り合った記憶はない。

 確認の意味を込めてメイにも聞いてみるが、彼女は首を横に振るだけだ。


「いったい誰なんだろうな……あの子……」


 クリスが抱いた小さな疑問は王都の喧騒に飲み込まれて消えて行く。




 *




 王宮の秘密口をくぐり自室に戻った頃にはすっかりと陽は傾き夕方となっていた。

 そういった意味ではあの場所で帰って正解だったのかもしれない。


 そんなことを思いながらクリスは窓から王都を眺める。


『そんなに心配?』


 そんなクリスにメイが話しかける。


「……今頃こんなことをって思ってもらっても構わないけどさ……私はこのままクリスティーヌとしてうまくやっていけるのだろうか?」

『なーに言っちゃってるの。私は、それがうまくいくためにここにいるんでしょうが……ちゃんと成仏できるか、元の身体に戻れるまでちゃんとそばにいるわよ』


 メイの手が背中に触れるのを感じた。

 彼女は体を持たないから実際には触れることはできないのだが、なんだかそういう気配を感じたのだ。


『大丈夫よ。大丈夫。不安になって押しつぶされそうなときはそうやって自分に言い聞かせればいいの。大体、あなたは天下の魔王様でしょ? このぐらいのトラブルでへこたれてどうするのよ』


 彼女は優しい口調で語りかける。


「……大丈夫か……そうだな。きっと、大丈夫だ」

『そう。その調子よ。仮に彼女との話がこじれたら私のことなんて構わずに王都をでても構わないわ。たとえ、そうなっても私は文句を言わない』


 でも、優しさの中にも確かな決意があって、彼女の複雑な心境もひしひしと伝わってくる。


「……メイは本当に強い。うらやましいぐらいだよ」

『別に私なんてほめられたもんじゃないわ。私の生き方なんて王女としては大間違いだもの……まぁ明日のことを考えても仕方ないし、目の前のことを考えましょう。ほら、いなくなった分の言い訳をちゃんと考えないといけないし。最初はアドバイスするけれど、ちゃんと自分でもできるようになってもらわないとね』


 急にいつも通りの調子に戻った彼女の気圧されそうになるが、クリスは少し間をおいてから笑みを浮かべた。


「そうだな。そうしよう……それで? 言い訳はどのようなものがいいのだ?」

『いやいや、いきなり頼らないで少しは自分で考えてみなさいよ』

「それもそうだな……では、これはどうだ? 一日部屋で国政について……」

『いや、それはないわ。少なくとも不在時に一回はメイドが掃除に来ているでしょうし……』


 二人で言い訳を考えているうちに陽は沈み夜が訪れる。

 夕食の準備ができたとメイドが呼びに来るまで二人の話は続いていた。

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