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鍛冶屋の少女

「ちょっと待ってくださいよ……なんで私が偽物なんて……」

「その態度! クリスは私にそんな態度はとらない。大体、化けるのなら魔力ぐらいごまかしなさい。あなたが持っている魔力は微弱ながら私がかつて魔族領で見た魔王のモノとそっくりだわ」


 少女はクリスののど元に切っ先を向ける。

 それに押されるような形でクリスは少しずつ後ずさりをした。


『あぁそういえば、この子って感知魔法の実力が飛び抜けてたっけ。おーいマミ。この子は中身魔王だけど敵じゃないわよ』


 そんな中、メイがのんびりとした声を上げる。

 しかし、その声が聞こえているはずもない少女……マミはクリスを壁際まで追い詰めた。


「さぁ早く」

「いや、ちょっと待て。これは単なる事故の結果というか、元に戻る方法がわからないというか……」

「嘘おっしゃい!」


 マミの叫び声が工房内にこだまする。

 クリスは必死に冷静を保ちながらこの状況を打破する方法を探る。


 この工房の出入り口は見る限り一つ。今、いる場所から少し右側にある扉だ。

 窓はいくつかあるが、どれも小さくとてもじゃないがクリスの身体ではくぐれない。


『あーあ、こうなっちゃうと前が見えなくなっちゃうからな……』


 この中でただ一人、メイだけがまるで他人事のように発言する。


「助けろよ」

『無理よ』


 クリスの懇願をあっさりと切り捨てたメイは工房の奥にある布が積んである方へ移動する。


 その間にもマミはこちらに迫ってくる。


「これ以上言っても聞かないっていうのなら、あなたを殺してでもクリスを取り返す!」

「いや! 待て! 中身はわしもで体はクリスのものだ! この体を殺せば!」

「うるさい!」


 目の前のマミが剣を高く振り上げ、もうダメかと思ったその時、工房の奥から声がかかる。


「信じてあげたら? その人の言うこと」


 クリスは声がした方に目を向けてみるが、そこにあるのは布が重ねられているだけに見える。

 しかし、それがごそごそと動き出した。


「えっ!?」


 困惑するクリスの視線の先で布の山の中から水色の髪をした少女が姿を現す。


「……アンズ。どういうつもり?」


 マミの言葉に呼応するようにアンズと呼ばれた少女は立ち上がり、こちらの方へと歩いてきた。


「その人って本当に悪い人なの?」


 アンズが小首をかしげる。


「それは……」

「本当にマミの友達の身体に勝手に入って悪さをしている人なの?」


 アンズの純粋な問いにマミはたじろいでいる。

 気づけば、クリスののど元に迫っていた切っ先はすっかりと下に降りていた。


「ねぇちゃんと話ぐらい聞いてあげたらどう?」

「……うん。そうよね。話も聞かないなんてさすがにね……いいわ。話だけは聞いてあげる、その上であなたに対する対処を考えるわ」


 そういうと、彼女は剣をしまい奥に置いてあるイスに座る。


「座りなさい。大丈夫、何もしかけていないから」


 すっかりと冷静さを取り戻したマミにうながされ、クリスは恐る恐る席に着く。

 それを確認したメイはクリスのすぐ横に座り、アンズもマミの横に座った。


「……少し冷静さを欠いていたとはいえさっきは失礼したわ。私はマミ。ただの鍛冶屋よ」

「こちらこそすまなかった。私は貴方の言う通り魔王だ。今は事情があってクリスティーヌと名乗っているが」

「……私はアンズ。居候」

『私はメイ。幽霊をやっています』


 それぞれの自己紹介(一人しなくてもいい人間が混じっていた気がするが気にしないこととする)を終え、マミはさっそく本題に入った。


「それで? どうして魔王はクリスの身体に入っているの?」

「……それはだな……」


 そこからクリスはゆっくりと事情を話し始める。

 中身が入れ替わってしまったのは偶然だということ、元に戻る方法はよくわからないが今、調べてもらっているということ、これは本来のクリス本人も同意したうえでやっているということをできる限りわかりやすくなるように噛み砕いて話していく。


「なるほどね……事情は大体わかったわ」


 すべてを話し終えるころには空は暗くなり始めていて、夜の闇がすぐそこまで迫っていた。


「このことについては、また明日話をしましょう。今日は帰って頂戴」


 彼女のそんな言葉に背中を押されるようにクリスとメイは工房から出て行った。

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