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草刈りと青空

 王宮の裏庭。

 草むらの中でクリスは座っていた。普通に考えたら姫にあるまじき行為だが、それをとがめる者はこの場にいない。


「思ったよりもきつい」


 やったのは草刈りだけだ。

 しかし、思っていたよりもきつい。


『体は私のなのにね……そうか。一年半もだらだらとしてたから体がなまちゃったのね』


 メイが一人上空で納得しているが、クリスはそれに抗議することはできないほど疲れていた。

 彼女はそう言っているが、おそらく、彼女が言っていること以外にも始めてやる作業で勝手がわからないとか様々な要因が重なった結果だとクリスは考えていた。

 口でいうのと実際にやるのとは違う。慣れているメイはある程度コツをつかんでいるのだろうが、クリスの方は指導されつつも手探りの作業だ。


『今日はこのぐらいにしておく?』

「……そうだな。これぐらいにしておいた方がいいかもしれない」


 この場所にはほかの人はめったに来ない。

 だからこそ、自室と同様に堂々とメイと会話できるし、姫様らしく振舞う必要もない。


 かつてのクリスが言っていたことが今になってよく理解できる。


 確かに姫だからといちいちふるまいを気にするというのはあまりにも疲れるモノだ。


 常に誰かの監視を受けているかのような気分になり、だんだんと気が滅入ってくる。


「今度、タイミングを見て市井に降りてみてもいいかもな」

『おっ! そうだったら、いろいろ案内するよ! 安くておいしい食堂とか、私の隠れ家とかね。まぁ最初のうちはこっそりと抜け出しても衛兵とかが後をつけてくるかもしれないから、周りには注意していかないとね』


 メイが人懐っこい笑みを浮かべる。

 それにつられるようにクリスも笑みをこぼした。


「まぁいいや。少し寝ころがってから部屋に戻ろう」


 木陰で寝ころがると、枝葉の間から青い空とそこを流れる白い雲が見えた。


「……今頃、アベルや勇者もこの空の下におるのだろうな」

『でしょうね。勇者は世界を見て回るため。アベルさんは……』

「どうせ、コソコソと潜伏しながらも自分の研究を続けておるのだろう。あやつの事だ。魔法の研究に生涯を費やしても足りないなどと言って不老不死の薬でも作っておるかもな」

『もしも、そこまでやるんだったら研究を堂々としたいからって見た目や下手をしたら性別すら変えてるかもね』

「はっはっはっ。さすがにそれはないだろう」


 そう言いつつも女になったアベルを想像してみる。


「いや、さすがにそれはできん。見た目ぐらいならともかく……」


 一瞬ではあるが、自分がしてしまった想像で大声で笑い出してしまいそうだ。

 だが、そこは必死に抑え込む。


 いくら、人の目がないからとやっていいことの限度ぐらいはある。


「まぁでも。アベルの奴にはとんだ迷惑をかけてしまった」

『……でも、それはいいんじゃないの? 魔王はいずれ倒されるもの。それはアベルさんもあなた自身も一番理解していたことじゃない」

「そうだな。結局、魔を総べてニンゲンの国を攻め落とそうとすれど、ニンゲンが勝つというようにこの世界はできているらしい。かつて、ニンゲンと拮抗した勢力を持っていた亜人も絶滅し、魔族もほぼ全滅。いよいよニンゲンの天下ということだろうな……こう言っては失礼かもしれないが、妖精や言語を持たないモンスターが国を建国するとは思えないからな」


 あまり考えたくないことだが、魔王が倒されたことにより本格的に魔族の排斥運動が始まるだろう。

 だが、ニンゲンと魔族が分かり合えることさえできれば魔族の全滅は回避できるだろう。


 それをいかにして成し遂げるのか……


 かつて、クリス(メイ)に丸投げした問題が丸々クリス(自分)に帰ってくるとは思っていなかった。

 今なすべきことは農産大臣としての役割を全うしつつ魔族の生き残りを図ること。


 これからなすべきことはたくさんある。


 クリスは草むらに寝転がりながら自らの決意を新たにしていた。

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