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アンドレとのトランプゲーム(後編)

 クリスは目の前に放り出された四枚のエースを見て考える。


 本当の意味で運だけがものを言うゲームになった。この状況で、勝利できる可能性はどれだけあるだろうか?


 勝てば、ここから脱出。負ければ……想像したくもない。彼の言い方からすれば、彼もしくは別の男にこの体を蹂躙されるのだろう。


 そんな事態はこのからだの本来の持ち主であるメイのためにも絶対避けたいところだ。


「……それでは、ゲームをする意思があるのなら、カードを手に取ってください」


 しばらく考えたあと、クリスはカードを手にとる。


『……クリス。何があっても、私はついているから』

「ありがとう。大丈夫」


 近くに浮かぶメイと短い会話を交わし、クリスはトランプを手に取る。


「ほう。ここでも、勝負をしますか。魔王様」

「えぇ。挑ませてもらうわ。私たちは前に進まなければならないもの」

「そうですか」


 アンドレと会話をしながら、私はトランプをシャッフルする。

 時間をかけて、念入りにシャッフルを済ませると、クリスはそのカードを机の中央に置く。


「さぁ始めましょう」

「では、先行はあなたに任せますよ」


 先行を任されるのは予想通りだ。クリスは、一枚目のカードを手にとる。


「ダイヤの6ね」

「次はボクの番ですね」


 アンドレがカードを引く。


「ボクはクローバーの6です。魔王様の番ですよ」


 そこからは、お互いにカードを引いて行く。


 ただし、アンドレが先ほどよりもゆっくりと引くせいなのか、はたまた自分の感情の影響なのか、これまでのゲームよりも時間が長いように感じる。


 それでも、ゲームは確実に進行していき、やがて、カードは半分以上なくなっていた。


「……私の番ね」


 ゲームが始まってからどれだけの時間がたっただろうか? 時計は見ないようにしていたのでわからない。


 私はゆっくりとカードを引く。


 そして、引いたカードは……


「ダイヤのエース……」


 クリスの手元にあったのはまごうことなく、ダイヤのエースだ。


「勝った! 勝ったよ! メイ!」


 クリスは触れないメイに向けてハイタッチのポーズを見せて、メイもそれに応じるような形で手を合わせる。


 すると、不意に拍手が聞こえてくる。


 その拍手をしている人物の正体はまごうことなく、対戦相手のアンドレであった。


「見事。見事ですよ。魔王様……いや、クリスティーヌ姫。よく、恐怖を乗り越えて私との勝負に勝ちましたね」

「何様のつもり?」

「用意されていたセリフですよ。あの方からの。どうぞ。進んでください」


 彼がそう告げて、扉が開いた途端に部屋の中の静穏を裂くような少女の悲鳴が響く。


「サラ!」


 その悲鳴の主をサラのものだと判断したらしいアンドレは、部屋を飛び出してサラが去っていった方向へと走り出す。


『……クリス』

「わかってる。先に進みましょう」


 サラに何があったのかは想像できない。しかし、それを確かめるために戻るわけにはいかない。この扉がいつまで開いているかなど、わからないし、彼らは敵だ。わざわざ助けるような義理はない。


 クリスは己の中でしっかりと覚悟を決めて、サラや続いて聞こえてきたアンドレの声を聴かないようにしながらゆっくりと閉じ始めている扉をくぐる。


 私たちが通り抜けると、扉がしっかりと閉ざされ、先ほどまで聞こえてきていた声も聞こえなくなっていた。

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