アンドレとのトランプゲーム(前編)
「先行は任せますよ。魔王様」
「そう。それでは遠慮なく」
机の上におかれたトランプのうち、クリスは一枚目を引く。
引かれたカードはダイヤのクイーンだ。
「あなたの番よ」
ここで焦ってはいけない。ゲームは始まったばかりだ。
「それでは」
アンドレがカードを引く。彼がひいたのはスペードの8だ。
その後も交互にカードを引いていくが、エースは中々でない。
「……出ました」
ゲームを始めてから約十分。アンドレがカードを引き当ててゲームが終わる。
「さて、これで一回目のゲームが終了しました。続けますか?」
アンドレがにやりと笑って告げる。
「もちろん続けるわ」
クリスはそれに応じて、二回目のゲームがスタートする。
「それでは、あなたからどうぞ」
アンドレに促されて、クリスはカードを引く。
ゲームといってもこれは所詮運だけで勝敗が決まるゲームだ。この状況の中で五回連続でアンドレがエースを引く可能性などそう高くはない。
どういう感情からこのような形式のゲームを仕掛けてきたのかわからないが、五回挑戦すれば一回ぐらいは勝てるだろう。
「ダイヤのキング……次はあなたの番よ」
「……それでは遠慮なく」
アンドレがカードを引く。
こうして始まった二回目のゲームは五分ほど続き、またしてもアンドレの勝利で終わる。
「……運がいいのね。あなた」
「えぇ。昔から運はいい方ですので」
クリスはカードをシャッフルしながらアンドレと話をする。
「三回目は?」
「もちろんやるわ」
そのあとは三回目、四回目とゲームを展開していき、四回目までアンドレの勝利で終わる。
「……五回目。やりますか?」
アンドレがにやりと笑う。その笑顔はまるで勝利を確信しているかのようだった。
そこでクリスはふと手を止める。
これはただ単に自分の運を試すだけのゲームのはずだ。しかし、それなのに都合よくアンドレが四回連続でエースを引いている。五十数枚あるカードの中でエースはたったの四枚。それを四回連続で引き当てることなど本当に可能なのだろうか?
「……あなた、もしかしていかさまをしているの?」
そうした状況を鑑みて、クリスはアンドレがいかさまをしている可能性に気が付く。
「えぇそうですけれど? あれ? 今頃お気づきですか?」
アンドレが笑いながら、いかさまを認める。その態度からして、いかさまの仕掛けを見破らない限りはこちらに勝利する手立てはないということになる。
「カードを確認させてもらっても?」
「どうぞ」
カードの確認をするといっても、アンドレがあせる気配はない。
クリスは先ほどゲームで引かれたカードをまとめて一枚一枚カード度を確認していく。
「……ない」
しかし、アンドレが引き当てたはずのエースはどこにも見当たらない。
そこから割り出される結論は一つだ。
「……なるほど。そもそも、このトランプにはエースが入っていない。そして、あなたは何かしらの方法でエースを出して私に勝ったと宣言している。違うかしら?」
クリスがいかさまの方法を推測すれば、アンドレは大きく手をたたいて答えを提示する。
「さすがですね。魔王様。正解ですよ。このトランプには最初からエースなど入っていないですよ。そして、ボクが引いた適当なカードをサラの魔法を使い、あなたにエースであると認識される。まぁせっかく気づいたのですし、そのことを歓迎して最後はいかさまなしで正々堂々やりましょうか。さて、どうしますか? 魔王様」
「ちょっと、アンドレ! そんなことしたら!」
「サラは黙ってて。いかさまを見破られたんだ。これ以上はできないよ。君はいったん部屋から出ていてくれ」
自らいかさまを認めた上に、いかさまがばれたから正々堂々と勝負をするという今頃ながらの宣言がされる。おそらく、彼は私が都合よくエースを引くとは思っていないのだろう。
「……うん。わかった」
かたくなに正々堂々とゲームをするというスタンスをとるアンドレを前にして、サラは不満げな表情を浮かべながらも部屋から去っていく。
「さて、これで正々堂々と勝負ができる。ゲームを始めましょうか。魔王様」
アンドレは四枚のエースをクリスの前に放り出して、にやりとした笑みを浮かべた。




