アンドレからの挑戦状
「……あなたたち、どういうつもり?」
王宮に突如して現れたダンジョン。そのダンジョンの再奥部と思われる部屋で待っていたのは、少し前から怪しいと思っていた二人……あまりにもできすぎた話ではないだろうか?
私はそんな意味も込めて、二人に声をかけたのだ。
「どういうもなにもねぇ。サラ」
「決まってますよね?」
二人が笑い始める。何がおかしいのだろうか?
「まぁあなたなら来ると信じてましたよ。魔王様」
アンドレから発せられた言葉で私は目を丸くする。なぜ、それを知っているのだろうか?
「なぜ、私が魔王だとわかったなという目をしていますね。聞いたからですよ。あの方から」
「あの方? 勇者の姉のこと?」
「違いますよ。あなたが勇者の姉と呼んでいる人物も所詮はあの方の手先にすぎない。とまぁお話はこの程度にして本題に入りましょうか」
「待って。あなたたちの言うあの方って……」
「言うわけないじゃないですか」
勇者の姉の更に背後にいる誰か。その存在について知りたいと思うクリスであったが、彼がそれを明かす気配はない。当然といえば、当然なのかもしれないが、少し残念に思ってしまう。
落胆する私を前にアンドレとサラは両手を広げる。
「さて、ゲームを始めましょう」
「ゲーム? なんのつもり?」
「そのままの意味ですよ」
アンドレがニヤリと笑う。
こんな状況でのゲームなど、ろくなものではないだろう。私はしっかりと彼を見つめる。
「いい顔ですね。その、決意と不安に満ち溢れた目。最高ですよ。中身は違うとはいえ、あなた様のそういった姿を見て見たかった」
そう言いながら、アンドレは懐からトランプを取り出す。
「ルールは簡単。私と二人で順番にカードをめくっていって、先にエースを引き当てた人が勝利。いかさまの可能性を排除するためにシャッフルはあなたに任せます」
アンドレがクリスにカードを渡す。
「……勝ったときと負けたときにそれぞれ起こることはあるのかしら?」
カードを受け取ったクリスはアンドレに質問をぶつける。
「勝った方がこの先に進める権利を手にすることができます。あなたは5回を上限に挑戦権がある」
「負けたときのリスクはここから脱出できない。それだけかしら?」
「……いえ、あなたが5回とも勝てなかった場合は……ちょっとした屈辱的な罰ゲームを用意しております。ほら、よくあるじゃないですか。捕らわれた女戦士は死ぬよりも屈辱的な未来が待ってあると。つまりはそういうことです」
どう考えても、相手にとって有利な状況だ。
「……私が勝った場合、あなたはどうなるのかしら?」
「……別に? 我々はあなたを通すだけですが」
クリスの質問に対して、アンドレはさも当然のように返す。
つまり、相手はリスクがない代わりにこちらには負けた時のリスクがある。そのリスクは、ダンジョンを出れなくなるだけではなく、クリスの体と心をひどく傷つける結果になるだろう。
しかし、だからといって挑戦をためらったところで先に進むことはできない。
クリスはカードを手に取る。
「トランプを手に取ったということは勝負の意思があるということですか?」
「えぇ。一回目の挑戦をさせていただくわ」
チャンスは五回ある。
クリスは自信にそう言い聞かせながら、カードを切り始める。
「ところで、切り始めてから聞いてしまっているけれど、シャッフルの仕方にルールはあるのかしら?」
「特にはありません。どうぞご自由に」
「そう」
クリスはしばらくの間、カードをシャッフルしてから、机の上にトランプを置いた。




