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再び仕掛けられるトラップ

 クリスティーヌ姫暗殺未遂事件の調査を始めてから半年が経とうとしている。

 いまだに二人の尻尾がつかめないうえに協力者の模索すらままならな状況の中、クリスは少なからずいら立ちを募られていた。


 それこそ、周りの使用人たちに当たり散らすなどということはないのだが、クリスのいら立ちを察した周りの使用人たちがそれとなく配慮をする程度には募っているものがある。


「全く。何がどうなっているのかしら」


 誰かがいるというわけでもないのだが、クリスはぽつりとつぶやく。


『さぁね。私にもさっぱり』


 前言撤回。どうやら、いつの間にか近くにメイがいたらしい。


「こう言っては何だけど、本当にクリスティーヌ姫暗殺事件なんてあるのか疑問に感じてきたわ。実は何もなかったんじゃないかって」

『でも、衛兵長はあなたの身を案じてトラップを仕掛けて死んだように見せかけるつもりだったんでしょう? なら、何かしらの危険は迫っているんじゃないかしら?」

「それはそうかもしれないけれど……」


 そもそも、クリスを死んだように見せかけるほど、危機が迫っているのならもっと何かがあってもいいはずである。それに、そんなリスクを冒してまでクリスを暗殺しにかかる理由がよくわからない。

 クリスが持っている権力は農業に関する分野だけであるし、魔王城に連れ去らわれる前のクリスは知らないが、自分は人に恨まれるようなことはしていない。強いていうなれば、生まれのことだったり、魔王城に拉致されたという事実だったりが関係しているのかもしれないが、それだったら魔王と姫の魂を入れ替えて姫が中身に入った魔王を倒せばそれで終了のはずだ。何も非力になった魔王まで暗殺をする必要はない。そうなると、魔王と姫の魂を入れ替えた人間と今、クリスの暗殺を企てている人間が別人だという可能性も出てくる。


「……難しい顔をされて歩いていますが、何かありましたか?」


 偶然通りかかったメイドに声をかけられたのはちょうどそんな時だ。


「えぇあぁちょっと考え事をね……」

「そうですか。でも、気を付けてくださいね。あまり周りを見ないで歩いていると……」


 彼女がそこまで言ったとき、突然足元の床がなくなる。


「思わぬトラップに引っかかることがありますから」


 次の瞬間にはクリスの体は重力に従って落下を始めていた。


 そのままクリスはメイドの顔を見る暇すらなく、暗い地下へと落下していく。


「えっ!? 嘘!?」


 こうなってしまっては抵抗のしようがない……というわけでもなく、クリスはこの体に宿るなけなしの魔力を使って必死に魔法を展開する。


「風よふけ!」


 何とか上昇気流を起こし、穴の上に戻る……まではいかなくても、落下速度を少なからず低減させる。


「あんまり深いと、魔力が持たないのだけど……」


 そうつぶやいた直後、ようやく地面に背中が到達する。


「痛っ」


 いくら風の魔法で速度を落としたといっても、完全に速度が殺せたわけではないのでクリスの背中に少なくない衝撃が走る。

 クリスはその場でしばらくのたうち回った後、ゆっくりと体を起こした。


「はぁ……やられたわね。ここはどこかしら?」


 周りを見回すが、周囲が真っ暗なので何も見えない。


 灯りをともす魔法を使おうとも思ったが、どうやら先ほどの風の魔法でこの体の魔力を使い切ってしまったらしく、しばらくは発動できそうにない。


 下手に行動して、ほかに何かがあっても困ると考えてクリスはその場で座って魔力の回復を待つことにする。


「ねぇメイ。いる?」

『いるわよ』

「退屈だから、しばらく話し相手になってくれる?」

『えぇ。私でよければ』


 そのあとは現実から目をそらすという意味も含めて、クリスとメイはなるべく明るい話題を選びながら雑談を始めた。

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