王宮での二人(メイド編)
「サラはあまり主張がなく、黙々と仕事をこなすタイプですね」
最初の作戦会議から数日。
メイド長のことはサラのことをこのように表現した。
あまり目立たず、会議などで意見を述べることは少ない。しかし、意見を求めればしっかりと答えが返ってくるし、仕事は黙々となおかつ完ぺきにこなすタイプだと。
アニー曰く、出身地の村では活発な女の子だったといわれていたそうなので、目立たないだとか意見を述べないだとかは潜入のため、懸命に演技をしている可能性が高いのだが、仕事が完璧だという点については彼女の実力そのものか、メイド長の指導がいいかのどちらかだろう。
「なるほど、主張がなく黙々と仕事をこなすタイプね……」
クリスはメイド長の言葉を口に出しながら飲み込む。
「この数日間観察してみてどうかしら?」
「そうですね……特段変わったことはなく、普段通りとしか……もっとも、私も仕事がありますので監視できる範囲には限りがありますので監視下に無い場所で何かをしているという保証はないのですが……」
「まぁそれに関しては仕方ないわ。これからも監視を続けてちょうだい。というのと、もう一つの話題なのだけど……」
クリスの言葉にメイド長は小さく首をかしげる。
「もう一つの話題ですか?」
その後に出てきた言葉からして、おそらく先のサラに関する報告だけで終わりだと思っていたのだろう。
そんなメイド長を前にクリスは言葉を紡ぐ。
「あなたに一つお願いがあってね。もちろん、サラの監視を優先してほしいのだけど、他にこちらの味方に引き入れられそうな人物を探してほしくて……」
「……なるほど。そういうことですか」
クリスが用件を告げると、メイド長は納得の表情を浮かべる。
「味方となるといろいろな人物に探りを入れる必要が出てきますね。それに人数もあまり多くない方がいいかと……万が一にも敵を招き入れるようなことがあってはなりませんから」
「まぁそれはそうね。人選は慎重にしたいし、候補が出たらいったんメイに監視をしてもらって、その上で判断しようと思っているわ」
「なるほど。それなら安心できるかもしれませんね」
メイド長としてはやはり、選びに選んだ味方の中に敵が混じってしまうという事態を恐れているらしい。それに関しては、クリスとしては当初から恐れていたことなので否定する気もないが、そればかりを考えていたら前に進むことができない。もしも、敵が入ることを恐れていたら、敵である可能性が完全に否定できない衛兵長を味方につけようなどという発想にすら至らなかっただろう。
もっとも、衛兵長に関してはアンズが一応味方であることと、メイがあの現場を見た後の行動からして敵である可能性はある程度排除されたという判断の上で声をかけたわけだが……
しかしだ。ここでふとクリスは考える。
あの衛兵長が仕掛けた罠が暗殺のためのものでなかったとしたら、クリスティーヌ姫暗殺未遂事件という存在そのものがなくなってしまうのではないかと。誰かが衛兵長に指示をしてそれをごまかすためにあのようなわなを仕掛けた可能性もあるのだが、肝心の衛兵長は言葉を濁すばかりで確信を得られるような答えは帰ってきていない。
いずれにしても、クリスの敵であろう人物が王宮内にいるという事実に変わりはないのだが、そのあたりの事情については改めて衛兵長を問いただした方がいいかもしれない。
「あの……クリス様?」
そこまで考えたところでクリスはメイド長の言葉で現実に引き戻される。
「えっあぁごめんなさい。話は以上だから仕事に戻ってもいいわ」
「はい。かしこまりました」
クリスの言葉を聞き届けると、彼女は深々と頭を下げてから部屋を出ていく。
その背中を見送った後にクリスは近くに控えていたアニーに衛兵長を呼んでくるようにと頼む。その言葉を聞いて部屋を出ていくアニーを見送ると、クリスは深くため息をついた。
『どうかしたの?』
「どうもこうも事情が見えてこないからね……ため息の一つもつきたくなるわよ」
そういうと、クリスはその場で立ち上がり、窓際へと歩いていった。




