与えられた仕事
「それで、今一番の問題というのは何かしら?」
クリスの問いに横にいた男性が首をかしげる。
「そうですね。はっきり言って、税率が高いことでしょうか?」
「……まぁそれはそうなのかもしれませんけれども、出来れば私の仕事の範疇でお願いできますか?」
「しかし、今年は豊作の見込みで食料の貯蔵も十分。治水の方も問題ないのでこれといったものはないかと」
メイの予想通り、王宮から帰ってから数日後に国政にかかわるようにという通達が来た。
担当は主に農産関係なのだが、今はなしている男性……前農産大臣が言うにはこれといった問題が起きていないという。
別に人間の為に働いてやろうという気持ちが強いというわけではないのだが、何もしないというのはいかがなものだろうか?
「安定しているのでしたら、新種の農作物の研究に資金を投じてみてはいかがかしら?」
「新種ですか……」
「そう。今は安定しているかもしれないけれど、将来になって長雨や干ばつになるかもしれませんでしょ? そうなったときでも育つものがあればいいと思うの。どうかしら?」
「そうですね。さっそく取り掛かりましょう」
男性は頭を下げるとそそくさと退室していく。
『新種の農産物か……考えたわね』
彼が立ち去るなり、メイが口を開いた。
「そう?」
『そうよ。おそらく、お父様としてはあなたに名目だけ大臣の座を与えて仕事には関わらせないつもりでしょうね。でも、そんな中でもやるべき仕事をちゃんとやっていれば、仕事をしていないといわれることもないわ』
「あぁ……えっと、そうなんだ」
どこまでも嫌われているんだな。
純粋にそう思った。
仕事を大量に押し付けて目が回るほどに忙しいよりはましだろうが、仕事をできる限り与えないというのもこれはこれで苦労する。
彼女の言いぐさだと、何もすることがないからとおとなしくしていれば、ちゃんと仕事をしろと叱られるのだろう。
「さて、やりますか」
『そうね。思い立ったが吉日っていう言葉があるし』
そんな会話をしながらクリスは部屋を出ていく。
ここで新しい種ができるのを待っていてもいいが、できれば自らの手でやれるだけやってみたい。
そんな思いがクリスにはあった。
こうなってしまったからには、与え良得た仕事を全うしよう。そして、国王にささやかながらの復讐をしよう。
そんなことを胸のうちに秘めてクリスは裏庭へ向けて歩いて行った。
*
前農産大臣に自ら農作物を作りたいと申し出たところ、裏庭の一角に先々代国王時代に作られた小さな畑という話が聞けた。
新種の研究なんかは小難しくてわからないので、そちらの方は専門家に任せるとして、実際に作物を作る農民の苦労を知ろうということだ。
メイはこっそりと王宮を抜け出した時に手伝った経験があったようだが、魔王をやっていたときにそういったことをやる機会がなかったので実際に土いじりをしたことがないのだ。
「まずはどうするんだ?」
経験があるからと、種だけ渡されて誰も指導につかなかったので横にいるメイに指導を仰いでいるのだ。
『まずは草刈りですね。それ今は種を飢えるような時期じゃないから、来年の春に向けてひたすら準備ね』
「そうか……まぁ仕方ないな」
目の前にひろがる畑は背が高い草が伸びていて、見る影もない。
メイを始めとして王宮内に以前のこの畑を知っている人はほとんどいないだろうから、そういった証言を得て復元するというのは不可能だろう。
だからこそ、決められた場所の中であれば好きなように畑を作ってもいいだろう。
「よし! がんばろう!」
クリスはそうつぶやいた。




