それぞれの反応
クリスはメイド長と衛兵長にこれまでの経緯を順番に話していく。
自らが見た目は姫であるものの中味は魔王であること、本来のクリスの精神はそのあたりに浮いているということ、とあるメイドと衛兵が今回の件に乗じて自らの暗殺……即ち、魔王の抹殺を図ろうとしていること……自らがクリスにこの体を返すという意思があるということ……
二人はそれらの話を驚きの表情を浮かべながら聞いている。だが、衛兵長が攻撃をしてきたりだとか、メイド長が話を全否定するということはない。ただただ二人は静かにはないを聞いていた。
「……これが今回のことの顛末。信じるも信じないもあなたたち次第……まぁ私としては仲間は多い方がいいから信じてほしいのだけど」
「そう簡単に信じられる話ではないですね……」
クリスの言葉に対して、真っ先に口を開いたのはメイド長だ。
彼女の表情には驚きとともに同様の色が見受けられる。もしかしたら、魔王城に長くいたせいで姫がおかしくなったなどと考えているのかもしれない。
「まぁ信じられないのも無理はないわ。私だってこんな話をされたらそうそう信じられないもの……衛兵長。あなたは?」
クリスはメイド長の言葉に答えつつ衛兵長の方へと視線を向ける。
「私は……私は信じますよ。たとえ、中身が魔王であろうともクリス様はクリス様です。これまで城を抜け出したり、城を抜け出したりといろいろと苦労は掛けられましたが、どんなお姿になろうとも、そして中身が何者であろうともクリス様はクリス様です。ですので私はあなた様が守れと命じれば盾になります。あなた様が攻撃をしろといえば剣になりましょう」
「そうなると、探れといわれて密偵になるのは私ですかね」
私が何者であろうとも守る。そう宣言した衛兵長に続き、動揺も隠し切れないながらもメイド長が同意をする。
「たとえ、クリス様が何者であろうとも私たちと共に過ごしたこの期間にウソ偽りはありませんでした。あなた様はクリス様であろうとした。それは十分に信頼に値すると思っています」
なぜ、こんな自分の話を信じようとするのか? その疑問を口にするより前にメイド長から返事が返ってくる。
どうやら、この王宮に来てからの自らの行動がある程度認められているということらしい。
「ありがとう。二人とも」
これだけの返事を聞ければ十分だ。二人は自らの味方だといっても過言ではないだろう。もっとも、もしもこの二人が裏切って周りに姫の正体は魔王であると言いふらしたところで信じる人間などそうそういないだろう。
そんな計算もなくはないのだが、ともかく二人が信じたうえで協力してくれるという態度を示したことにクリスは心の中で安堵する。
「とりあえず、これからそれぞれがどう動くか協議をしましょうか」
衛兵長、メイド長、アニーそして、メイを交えてクリスを中心とした作戦会議が始まる。
時刻はすでに夕方であるが、作戦会議は活発に行われ、気が付けばすっかりと夜になっていた。




